【無料公開】分断される酪農家の姿を浮き彫りに…メガファーム経営者座談会に届いた反論と各出席者の〝アンサー〟(後編)

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メガファーム経営者座談会の模様(2024年2月23日)

 財界さっぽろ2024年4月号では、北海道を代表するメガファーム経営者人による、酪農の現状と今後を語る座談会を掲載した。とくに財さつJPでは、前後編合わせて20,000字にわたり、国やJA組織の問題点、メーカーの無責任さを始めとする酪農危機の元凶とは何かを語り合った内容を余すところなく収録。同じ酪農家のみならず、農水省やJAグループ、メーカーなど幅広い関係者からの反響があった。

 他方、本誌発売後の3月中旬、読了したというある道内の農家から詳細な“反論”が届いた。座談会出席者に紹介したところこの反論に回答したいとの申し出があった。前編に続き、「カーム角山」代表の川口谷仁氏からの返答を以下に掲載する。

「農業者の目的・責務」のため歩み続けることが必要

 座談会の記事を読まれた方の中でこうした「感想」があることは十分理解いたします。酪農に携わるものみんなが食糧の安定供給者としての責任を果たすべく「それぞれの解釈」で正しい道を進んでいるのですから。

 その上で今回、一番懸念しているのは「問題の本質が議論されていない点」です。

 北海道における酪農の義務と責任は何か?それを、5000戸切った酪農家でいかに維持、存続させていくのか?そのために必要とされる政策・施策は何か?そしていかなる議論を重ね「夢ある未来」を構築するのか。理想論ではなく現実論として今行動すべき時に、過去にも沸き起こった「批判」議論になぜ繰り返し行きついてしまうのか……そういう懸念です。

 生乳はコメと並ぶ基礎食糧です。われわれ酪農家は消費者に対し「安定供給(価格・量)」が求められると同時に、指摘の様に「国土保全」の責務を負っています。畜産と言うカテゴリーにおいて酪農が異質であるのが「土地が紐付いている」という点です。従って、鶏・豚・肉牛のように地域に偏った大規模化・企業化は難しく、ご意見の中で指摘されたように、地域コミュニティーの維持に紐付いて農地保全を担っています。

 2018年に6140戸・396万トン(以下、北海道における数値。Jミルクより)だった生産は、22年に5560戸・425万トンと580戸減り、29万トン増加しています。

 一方、経産牛100頭未満の戸数は18年の4830戸から、22年に4163戸と667戸減。100頭以上は1310戸から1397戸と87戸の増加。つまり生乳安定供給のため、増産には大規模法人化が必要だということが数値から明らかです。ただし所得率は売上1億円以下(概ね100頭以下)の17%に対し、3億円以上になると11%まで低下するとのデータが公表されています(この数値は現在もっと下がっています)。

 生産人口が減少し、農業従事者の平均年齢が68歳という現状、小規模の家族経営は営農の維持はできても設備投資する体力はない、あるいは後継者不在でする必要がない。所得率というのはそういう数字です。

 コロナ禍で、ある酪農家が「生産費が高騰しているので頭数を減らし、餌を減らし、乳量を減らし、投資をしないことによって収益が上がり経営が上向いた」と発信されているのを見ました。「個」を守り、維持・存続させるというのは経営者としては正しい判断でしょう。でもそれは次の世代においても基礎食糧の安定供給を続けていく、という酪農家の責務を果たしていることになるのでしょうか。

 1つの経営体自体が守られたことは重要ですが、ほかの酪農家も同じことをして経営が守られるのか。そうではなく、将来のための政策と施策が求められているのではないでしょうか。

 そもそも日本の農業政策における「個」の存続は生産人口の減少で既に破綻しており、安定的な担い手育成のための法人化・大規模化は避けられません。

 乳代を補填する「加工原料乳生産者補給金」に関しても、生乳の適正価格はどこにあるのか。生産者の適正価格と消費者の適正価格には大きな開きがあります。国際競争力においてもなぜ日本の農畜産物は勝てないのか。ここを冷静に議論すれば「補助金=悪」と言う対立にはならないと思います。この点においては我々生産者及び生産者団体が生産コストをしっかりと紐解き政策提言をすべきです。

 私は20頭の小さな酪農家からスタートしました。しかし、酪農が負うべき責務(安定供給と国土保全)に目を向けた時、自分の当時の現状に大きな不安を持ちました。私の存在意義はあるのだろうか、子供たちは酪農を継承したいと思うのだろうか、増え続ける耕作放棄地は誰が維持していくのか。牛乳は安定供給できるのか。

 結果として大規模法人化に舵を切り補助金を利用し、スマート化を実現し今も農業経営者として存在しています。弊社の従業員は7時に出社し17時に退社、1歳の子供をお風呂に入れ一緒に夕食を食べる生活を実現しています。未来の担い手は「この環境なら酪農もアリ」となっています。

 ご意見の通り、地域コミュニティー存続には「家」がある事が大前提です。私も家族経営、小規模経営を全く否定しません。今後も如何にして家族経営を維持していくのかは重要な課題です。

 ただ大規模化による「持続可能」な経営体も今後より増加しなければ安定供給は崩壊します。両輪がバランスよく「農業者の目的・責務」のため歩み続けることが必要です。たとえばコンビニのようなフランチャイズ化によって地域コミュニティーを維持できないでしょうか。

 今、目を向けるべきはお互いへの批判ではなく「担い手である若者の為に未来において魅力ある酪農業界を構築する」環境を我々大人が議論し実現していく事だと思います。以下は弊社の経営理念の一文です。

 私たちは、祖先・先輩方から預かった資源に感謝すると共に、常に素人集団として既存の概念に捕われず、創造性を発揮し業界発展の為先駆者となり貢献する。

 私は経営者として「自分と未来は変えられる!」と学びました。過去にない速さで時代が変化していく中で「他人と過去は変えられない」のです。われわれは未来のためにエビデンスに基づいた建設的な議論をすべきではないでしょうか。

 理想論のようですが、現実的な将来像として私は信念をもって以上の様に考え行動しています。未来のために、このご意見に対する「説明責任」とします。

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川口谷仁氏

 本稿の掲載にあたり、意見を送付いただいた酪農家の連絡先まで取材や座談会出席者との対談を事前に申し込んだが、現在まで返答はない。もし返答などがあった場合は追記あるいは別の記事にて紹介する。

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