【無料公開】札幌ドーム〝解体論〟が話題、過去に浮上した全天候型、東洋一の新・札幌競馬場構想の中身

©財界さっぽろ

2006年当時に作成された新・札幌競馬場のパース

 いまSNS上で話題になっているのが、札幌ドームの〝解体論〟だ。命名権のスポンサーを募集していたが応募ゼロ。募集期間を無期限延長している。
 そんな窮地の札幌ドームを解体し、跡地を有効活用すべき、という声が飛び交っている。ただ、解体というのは非現実的であり得ない話といっていい。
 そうした中、競馬ファンからは新競馬場の建設待望論が出ている。
 札幌には桑園地区にJRAの競馬場がある。小回りで直線コースが短いこともあり、GⅠは開催されていない。中山、東京、阪神、京都のような競馬場を新たにつくり、GⅠ・札幌記念開催実現を――そう熱望する声が広がっているのだ。
 実は解体ではないが、いまから18年前、本気で札幌ドームの隣接地に競馬場を誘致する動きがあった。
 月刊誌「財界さっぽろ」2006年2月号では、「羊ヶ丘へ移転 札商が描いた全天候型競馬場」という見出しで報じた。
 以下、記事を再掲載した。人物の肩書などは当時のままだ。

地下鉄を延長し、「ドーム・競馬場駅(仮称)」を設置

 全天候型競馬場新設構想を打ち出したのは札幌商工会議所(札商)の道州制検討特別委員会(布施光章委員長)。

 道州制と競馬場はかけ離れているようにも思えるが、札商の委員会は国と地方組織の問題や地方財源などについては行政や学識者などに論議を委ね、道州制の枠組みの中で本道経済の振興・自立を考え、規制緩和や撤廃により新たな具体的プロジェクトを提案することにした。その中から具体案として叩き台を打ち出したのが、全天候型競馬場新設構想だ。現在は桑園地区にあるJRA(日本中央競馬会)の札幌競馬場を移設するというものである。

 ポイントとなるのは①街づくりの観点から現在の札幌競馬場を郊外に移転②国の施設である北海道農業研究センター(豊平区羊ヶ丘)の一部を転用、四季折々の景色やレジャーを楽しめる公園を併設③ホッカイドウ競馬の再生と日高などの軽種馬産地の振興を図る④国、JRA、札幌市、民間企業や金融機関が連携する⑤札幌ドームに隣接して屋根付き競馬場を設置することで「ツインスタジアム」として北海道観光のシンボルとする、などだ。

 新・札幌競馬場は札幌ドーム西側の北海道農業研究センター内への移設を想定している。現札幌競馬場はJRAが1958年に建設、71年に改築した施設で、老朽化が進み、大規模改装か建て替えの時期を迎えつつある。そこで思い切って移転することを提案している。敷地面積80~100ヘクタールを取り、芝の2400メートルコースをメインとし、スタンドは6~7万人規模とする。

 スタンド、コースには屋根をかけ(中央部、コース内側はオープンエアー)、ナイター設備完備で、通年使用が可能な東洋一の全天候型施設とする。施設を充実させることで、現在の中央競馬年2回開催、16日から1~2回の開催追加を見込めるほか、GⅠレースや国際レースの開催も期待する。ホッカイドウ競馬については、現在の年87日(札幌開催は35日)を、150日(札幌100日)程度に拡大、道営競馬の収支改善にも寄与する。

 競馬場は周辺を含めて馬事公苑とし、遊園地を併設。随所に桜を植林して、名所とし道民や観光客が楽しめる場とする。ヨーロッパの競馬場は男女が正装で訪れる社交の場で、札幌競馬場にもそんな考え方を導入、競馬ファンばかりでなく家族やカップル、観光客などが広く利用するものとする。五輪通にポプラを植え、羊ヶ丘展望台まで並木沿いの散策路を設置する。競馬場敷地内に3000台の駐車場を設け、札幌ドームの駐車場と合わせて広大な駐車スペースを確保する。

 さらには地下鉄東豊線を延長し、地上に「ドーム・競馬場駅(仮称)」を設置、駅とドーム、競馬場を屋根付きの空中通路か地下通路で結ぶ。地下鉄についてはさらに羊ヶ丘通りの美しが丘、里塚方面に延伸することも提案している。

 地下鉄東豊線は開業当初1日14万人の利用予測に対し、実績は8万人に止まっていたが、札幌ドーム開業後、12万人に増加した。2つのスタジアムで最大12万人の集客が見込め、地下鉄の増収効果が見込まれる。さらに札幌市南部、北広島方面からのアクセス改善のため、里塚方面への延伸を、ということだ。

建設費、運営に地元企業も参加

 ツインスタジアムが実現すれば、羊ヶ丘展望台からの眺望がさらにアップし、下り道の散策路を歩けばスタジアムに至る「歩いて見る」観光の場となる。また、新札幌競馬場の誕生は全国の8割を占める本道の軽種馬産地の再生につながる効果も大きいとみられる。

 札幌競馬場の周辺環境に関する問題は、中心部がオープンとなるが深い屋根がかかるため、騒音の漏れは軽微とみられる。住宅地との境界になる五輪通りに沿って、5列程度のポプラ並木に植栽し、二重の騒音対策を講じる。冬季の積雪問題は、ロードヒーティングやスタジアム中央部に設置する融雪槽で対応する。

 もっとも現状では、勝手に北海道農業研究センター用地の転用を描いているだけで、センター側の協力や現在農地となっている同センターの用途変更が必要。札幌ドームの場合同様に新競馬場についても中央競馬振興、ホッカイドウ競馬や馬産地再生支援のためにも規制緩和を求める。

 建設費については、現在は全国10ヵ所の中央競馬はJRA自前の施設を利用しているのに対し、新競馬場は地元自治体、政府系金融機関、民間金融機関、地元企業などが協調して建設計画及び資金造成を図る、としている。

 また、運営についても現在はJRAが全てを行っているが、新競馬場は公園などとの複合施設となるため、サービス性、利便性向上のため、一部を地元企業が受け持つようにする。

 札商ではすでに吉田啓二JRA札幌競馬場長、橋本善吉北海道馬主会長らに構想を示し、協力を要請するなど、関係方面へのアプローチを開始した。今後は道や札幌市も巻き込んで運動を展開していく構え。

 JRAは全国に10ヵ所の競馬場を保有して、本道の函館、札幌を除く競馬場については順次建て直しを進めてきた。現在は07年までの予定で府中の東京競馬場を拡張工事中だが、それが終われば本道以外は整備が一段落する。しかし、札商からの札幌競馬場移設のアプローチに対して、JRAは慎重姿勢だ。

 ただ、JRA関係者の間にも次の段階として耐震構造への転換も含め、函館、札幌競馬場の改築が必要だという認識はある。優先順位としては函館よりは札幌の方が先になるともみられる。現在地で施設を改築するとなれば、他の競馬場の例からみて約200億円の建設費がかかる。それならば思い切って郊外へ移転することも検討の対象になる、ともみられる。

 現在の札幌競馬場用地は52ヘクタール強あり、一平方メートルあたり公示地価7万5000円をかけ算すると390億円。実勢価格で売却すれば400~500億円とみられるから、将来を考えると移転という選択肢も全くあり得ないことではなさそうだ。

現・札幌競馬場に根強い移転論

 札幌競馬場は今や迷惑施設としての側面も否定できない。近年は周囲の発展が目覚ましく、市立病院、中央卸売市場の整備、マンション建築ラッシュなどがある。競馬場には厩舎(きゅうしゃ)が付随しており、悪臭が漂う。風が強い日には、市立病院にまでワラ屑が吹き付けることさえある。目には見えない細菌なども周囲を漂っているとの懸念もある。そんなことから以前から競馬場移転論があることは事実だ。

 実はこれまでゼネコンや商社が非公式に札幌競馬場の移転を打診したことがある。それに対して、JRA側は「売り上げダウンへの対応策として、合理化、各地の場外馬券発売所の経費削減などに取り組んでおり、新たな大型投資は難しい」という説明だった。

 これについて「民間企業でなく、道や札幌市など公的機関が声を上げなければJRAとしては対応しづらい」という解説もある。JRA関係者の中には個人的には札幌競馬場移転に理解を持っていても、それを進める手法としては公的な仕掛けが必要だ、とする声があった。札商が作成した構想の中には、馬産地振興についても取りあげられている。平成初頭の軽種馬生産ピーク時には600億円の生産額を記録したのが、現在は200億円に減少している。全天候型競馬場建設により、ホッカイドウ競馬の開催日数が倍増すれば24億円程度の軽種馬生産額が見込まれるとういのだ。

 本道は馬産地であり、斜陽化が深刻な問題となっている軽種馬育成にとって、シンボルとなる競馬場が必要だ。

 今後、馬産地振興策として着目されるのはアジアの競馬事情という。中国では08年オリンピックを控え、競技種目の中には当然競馬が入ってくる。その後は、馬券発売を伴う競馬が公認される見込み。現在(06年)馬券は違法だが、黙認されている。それが晴れて公認されれば香港、マカオ、北京、広州などの競馬が一気に活気づき、さらに各地に競馬開催が広まるとみられる。

 韓国では、ソウルと済州島の二ヵ所で日本円換算で約6000億円の馬券売り上げがあるという。05年中に釜山に大型競馬場が誕生し、馬券売り上げ規模は1兆円に達するとみられている。

 中国や韓国では現在マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドから競走馬を輸入する一方、自主生産のための人材養成を急いでいる。本道にもそのための留学生が来ている。日高を中心とする馬産地もアジア方面に目を向けていく必要がある。

 そんな流れの中でも札幌に東洋一の規模、内容を持つ新競馬場ができれば、韓国や中国、台湾などからも注目されることになるだろう。それら地域の北海道ブームもありがたい現象だ。 政界では、本道には農林水産大臣も経験した武部勤自民党幹事長、現役農水大臣の中川昭一氏らがいる。JRA、北海道農業研究センターともに農水省所管であり、本道側から要請活動を展開するにもピッタリのタイミングだ。

以下、財界さっぽろ過去誌で掲載した札幌ドーム関連記事。

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