映画「一月の声に歓びを刻め」公開記念!カルーセル麻紀と松山千春の自叙伝本対談

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カルーセル麻紀さんと松山千春さん

 明日2月9日に公開される映画「一月の声に歓びを刻め」は、三島有紀子監督が自身の幼少期の性被害をモチーフにした自主制作映画。北海道・洞爺湖、東京・八丈島、大阪・堂島の3つの島を舞台にした作品だ。釧路市生まれのカルーセル麻紀さんは洞爺湖編に登場する。性暴力の被害を受けて次女「れいこ」を亡くした「マキ」を演じた。2月15日発売の「財界さっぽろ」3月号では、カルーセルさんと三島監督の対談を掲載。映画撮影の裏話や魅力をたっぷり語っている。

 カルーセルさんは過去に本誌で「酔いどれ女の流れ旅」という連載を担当していた。2015年、それをまとめた自叙伝本を発刊した。同著に収録されているのが足寄町生まれの松山千春さんとの対談。カルーセルさんの映画公開を記念して対談部分をお届けする。いまの若い世代に「覚悟をすれば、もっと面白い人生、世の中が待っていると思う」というメッセージを送る。対談を通じて二人の生き様を感じてほしい。なお、記事内に登場する名称、肩書などは当時のままだ。

女は麻紀の覚悟、生き様に憧れる

麻紀 : 昔と変わらずお元気そうですね。

松山 : 一度心臓で倒れたけど、元気ですよ。でも、タバコだけはやめられなくて……。

麻紀 : 私もそう。タバコが原因で足の調子が悪くても、吸うのを我慢できないのよ。これまで本やテレビで、千春のことをいっぱい書いたり、しゃべったりしてゴメンなさいね。

松山 : いえいえ。なにせ北海道が誇る偉大なる大先輩ですから。わが北海道は、歌謡界には北島三郎という御大がいる。ニューハーフの世界ではカルーセル麻紀がいますから。なんで北海道が道民栄誉賞を与えないのかなと(笑)。麻紀は、わが〝道東の星〟ですよ。

麻紀 : アハハ。昔は「道東、釧路の〝恥〟」って言われてましたけど。実はすぐ下の弟は、千春にそっくりなのよ。テレビ局の人に紹介すると「お兄さんですか?」って聞かれる。次は「お父さんですか?」という調子。すると「松山千春さんに似てますね」って。頭もそっくりで(笑)

松山 : 弟さんによろしく言っといてください。

麻紀 : 千春と会うのは久しぶりだわ。正式にこうやって酒を飲まないで話すのは初めて。

松山 : 麻紀とはこれが初めての仕事ですよ。最初にどこで会ったのか、最後にどこで会ったのかを忘れるくらい、しょっちゅう顔を合わせていた時期があったよな。

麻紀 : 最初、千春に会ったのはススキノですよ。「エンペラー」で司会をやっていた女の子が独立して、クラブを開店したじゃない。その店で私が飲んでいると、後ろの席の千春が「先輩、初めまして」と立ちあがったの。

松山 : たしか、ハルエって言う女だったかな。ハルエはキレイだったろう。あの頃、ススキノで一番美人だったんじゃないかな。

麻紀 : その後、私は福岡で仕事が多かったので、行くたびに千春に会うのよ。飲みに行く店まで一緒で。その店に千春が狙っていたホステスがいて……。その子と私は友だちだったの。

松山 : 中洲に骨をうずめようと思ったくらい惚れていたな(笑)

麻紀 : 当時、千春はすごいお酒を飲めると思っていたんです。だって、飲みそうな顔をしているじゃない。
 その店で、ジャンケンで負けた人がニコラシカを飲むことになるの。当時、ブランデーにレモンを乗せるニコラシカが、とても流行っていたんです。千春がジャンケンで負けると「麻紀ネェ、頼む。飲んでくれ」とお願いしてくるの。私は「その代わり一曲歌って」と言うと、千春が北島さんの「兄弟仁義」を歌ってくれるんです。あまりにうまいので、店の中はシーンと静まりかえり、みんな聞き惚れてしまうの。

松山 : オレは酒が飲めないのに加えて、ジャンケンが弱いんだな。麻紀にはすごいカバーしてもらって、その節は、ありがとうございました。昔から感じているけど、ススキノと中洲は似ているんだよな。

麻紀 : どちらも移動するのに車がいらないでしょう。歩いて回れるから好きなの。

松山 : 不思議なんだけど、若いとき、ススキノのホステスに「今日はカネないし、泊まるところがない」と言ったら「私の家に来なさい」となるんだよ。社交辞令じゃない。それは中洲も同じでさ。しかも朝起きたら、ちゃんとメシが並んでいる。この気質はなんなんだろうな。

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麻紀のハダカはスタイル抜群で美しい

松山 : それにしても、麻紀はすぐに脱ぎたがるんだな。もう、何度ハダカを見たことか(笑)

麻紀 : こないだレギュラーを務めている東京の番組にマツ(松崎しげる)が出演したんです。マツが「麻紀ネェだったら、ピアノの上で真っ裸になって大股を広げる。どれほど見たことか」と話すの。私は「お前だって私の誕生日パーティーで、何人の女とヤッたことか」と言い返してあげたわ。

松山 : 麻紀の体は美しいんだよ、本当に。脱いだとき、それを見たホステスたちが驚くわけ。「なんてスタイルがいいんだろう」と。オレはいつも「お前らの体と違うんだ」って言うんですよ。

麻紀 : ホステスはみんな私の体を触りに来るの。みんな男だと思っているから。ディナーショーでも8割が女性っていうくらいです。客席を回ると、チチは触られるわ、ケツは触られるわ。もう、おカネを払った以上、何かしなきゃいけないみたいな。

松山 : 男より女が麻紀を慕っていくんだよな。生き様がカッコよくて、憧れるんだよ。

麻紀 : そうなの。いまだに友だちも女のほうが多いですから。私は、男に媚びて女を売り物にする女性は嫌いなの。芯の通った女性はとても美しいわ。

松山 : エンペラーにしてもそうなんだけど、ススキノも大箱の店がどんどんなくなってしまっただろう。いま、歌謡曲の方々も、キャバレー回りがないから、大変じゃないかな。

麻紀 : そう、とくに演歌歌手が大変よね。千春は、あれだけヒット曲を持っていて、いまなお全国をコンサートで回っているからすごいじゃない。

松山 : あの頃は、小林旭さんにしても、あちこちキャバレーの舞台に立っていたもんな。

麻紀 : 勝っちゃん(勝新太郎)だってキャバレー回りはしないと公言していたんです。「オレは映画の人間だから、歌わない」と。でも、おカネがなくなると全国に行っていた。キャバレーはコンサートと違って、お客さんを自分に引っ張って来なければいけない。だから、べしゃりもうまくないとね。7曲くらいの歌で2時間近く公演できるくらいじゃないと。お客さんから「いつ歌うんだー」って言われても、「家でレコードを聴きなさい」って言えるくらい。いまの歌手ってずっと歌うじゃない。あれじゃ、飽きるのよね。テレビで言えないことを生で話す。そういう裏話で曲をつないでいく。でも、しゃべりまくって、次の曲を忘れてしまうこともあるけど。

松山 : オレのコンサートも同じですよ。「歌を聴きたかったら、どうぞ家でCDをかけてください」と。オレは自分で曲をつくっているにもかかわらず、すべて歌詞カードを見ないと歌えないんですよ。「恋」でも「長い夜」でもそうですよ。たまに譜面台の歌詞カードをめくりすぎることがあって。バンドメンバーが音を出したら「あれ?これ曲が違うぞ」って焦るわな。
 いまの若手歌手は、みんな打ち上げに行かないんです。酒も飲まないし、マージャンもしない。昔は博打をしないミュージシャンなんかいませんから。この前、人気の若手歌手に「公演後に何をやってるんだ」と聞いたら、「ホテルでコンビニ弁当を食べている」って。オレから言わせればバカじゃないのって。何のためにツアーで全国を回っているのか。

麻紀 : 飲みに行くときも、自分のおカネじゃないからね。私は旅番組のロケに行ったら、収録後はスタッフたちとドンチャン騒ぎよ。

客を笑わせると、笑われるは大違い

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松山 : 麻紀の時代の後、オレたちの時代が来るんだけど、オレは銭、カネを使って遊びたいから、歌っているわけですよ。そうしたら自腹を切るのは当然だし、知り合いがいたら一緒に飲むよな。

麻紀 : いま、そんな芸能人がいなくなったのよね。勝っちゃんなんか飲みにいくと、隣の席からすごいブランデーが来るわけ。勝っちゃんは「なんじゃこれ、もっと高いのあるだろう。向こうにあげろ」と言う。

松山 : 昔は芸能人何人かで食事に行って支払いになると、みんな手を上げて誰が払うか揉めるくらいだったよな。

麻紀 : いまの若い人たちは、お勘定が近くなるとトイレに行ったり逃げていなくなるそうです(笑)

松山 : つくづく思うけど、カネは使わないと自分には入ってこないって。一般のサラリーマンの方々は別ですけど、われわれがそれをやらなかったら、景気が良くなるわけがないじゃない。いま、一流企業の社長、役員とか肩書を持っているみなさんにも言いたい。「どんどんカネを使いなさい」って。

麻紀 : ホントそうよね。おカネを貯めようと思うのはダメ。使えばおまけがついて自分に戻ってきますよ。最近、新宿2丁目にあるワインバーのオネェのマスターがいつも言うの。「美川(憲一)さんとデヴィ(夫人)さんと麻紀さんは元気よねぇ」って。憲坊(美川憲一)とは同じ事務所にいたのよ。

松山 : 美川さんは本当に歌がうまいよな。生であれだけ聞かせるんだから。

麻紀 : 憲坊は発声練習をやったり、いまでも一生懸命頑張っているから。やっぱり現役でいることは、大変なことよね。私は最近、化粧をするのも面倒くさくなってきて……。化粧したくてオカマになったのにね。

松山 : いつまでも現役であるべきだよな。われわれ歌手もそうだけど、「コイツ、しばらく歌ってないな。久しぶりにテレビに出てきたな」という歌手は、はっきりわかるんだよ。声の出が違うんだな。お客さんにはわからなくても、歌っている本人、プロの連中から見たらわかりますよ。
 オネェといえば、何代目かのマネジャーの息子が、オレの娘と同級生で、同じ高校に通っていたの。それで高校を卒業して、娘に「マネジャーの息子は何やっている?」って聞いたら、「いま、ススキノのゲイバーにいる」と。

麻紀 : オネェだったんだ。

松山 : 「ららつー」にいるんですよ。もう、ビックリだよな。麻紀の人生そのものを、ニューハーフ系の連中に、しっかり見てもらいたいよな。いま、いろんなニューハーフがテレビに出て、盛り上がっているけど、普通のステージで稼げるかっていう話ですよ。しかも、お前を目当てに客がおカネを出してくれるのかという話です。
 お笑い芸人もそうだけど、お客さんを笑わせているのではなく、笑われているだけだからな。これは麻紀と大きな違いですよ。テレビにちょこちょこ出てきて、売れた売れないとか。そんなくだらないこと言うんじゃないのって。

麻紀 : 北海道びいきかもしれないけど、タカアンドトシが大好きなんですよ。この前、タカには楽屋で「いっぱいお笑い芸人がいるけど、アンタたちが一番おもしろいわ」と言ったわ。

松山 : 実はタカアンドトシのトシは、オレの前任マネジャーの息子なんです。トシはガキの時からずっと知っています。もっというと、トシの姉ちゃんがオレの札幌の事務所で働いています。オレはトシの一家の面倒をみてますから(笑)

麻紀 : えっ、そうだったの。2人とも行儀がいいですよね。

松山 : いま、これだけ豊かで平和な日本の中で、われわれ芸能人、政治家、一般国民に何が足りないのか。それは〝覚悟〟ですよ。麻紀は42年前、フランスからアフリカのモロッコに渡った。言葉もわからない地で、命がけで日本人で初めて性転換手術をした。この覚悟はすごいよな。マツコ・デラックスだろうが、徳光和夫さんの親戚(ミッツ・マングローブ)だろうが、麻紀と比べれば覚悟の面ではかないませんよ。
 麻紀やオレはいくらカネを積まれても、歌いたくないときは歌いたくないんです。ノーギャラだろうが、歌いたいときは歌いますから。

麻紀 : そう、そう。気分がいいときは、マイクを持ったら離しませんから。

松山 : どんな世界でもゴマをすってばかりいても仕方がないんだよ。麻紀は覚悟を決めて道を切り開いてきたわけだから、それが女から見たら、憧れなわけ。私もこういう覚悟をしてみたいとね。
 オレがいまの若い世代に麻紀を通じて伝えることがあるとすれば、「お前らは覚悟が足りないんじゃないか」ということかな。覚悟をすれば、もっと面白い人生、世の中が待っていると思うけどな。

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