【無料公開】小樽の旅館「銀鱗荘」がロケ地に!映画「天間荘の三姉妹」北村龍平監督インタビュー
「天間荘の三姉妹」は、漫画家・髙橋ツトムさんの代表作「スカイハイ」のスピンオフ作品だ。天界と地上の間にある街「三ツ瀬」の老舗旅館「天間荘」を舞台に描かれるヒューマンファンタジー。実写化にあたり、天間荘の撮影は小樽市の「銀鱗荘」で行われた。監督を務めたのは、ハリウッドを拠点に活動する北村龍平さん。「あずみ」や「ゴジラFINAL WARS」などの代表作で知られている。その北村監督に、北海道ロケの印象や今作に対する思いなどを聞いた。
――天間荘のロケはなぜ、小樽の「銀鱗荘」で行うことに?
北村 : タイトルが「天間荘の三姉妹」というだけあって、天間荘のビジュアルはとても大事な要素でした。そのため、日本中の旅館をスタッフと探し回りました。数カ月探してもなかなか見つからず、あきらめそうになっていたところ、最後に「銀鱗荘」の写真が送られてきました。「これだ!」と思いましたね。
ただ、われわれがイメージに合う建物を見つけたとしても、旅館は普段営業を行っています。場所を借りることができる確証はありません。たまたま、銀鱗荘は改修工事を行われている時期でした。「お客さまの少ない時期なので、やりくりすれば撮影してもいいですよ」と言っていただけました。映画づくりは運も大事な要素です。運気の流れもいいなと思いました。
――天間荘の舞台が銀鱗荘に決まった際、原作者の髙橋ツトムさんに連絡をしたそうですね。
北村 : 髙橋さんとは20年来のお付き合いもあり、いつも連絡を取り合っています。銀鱗荘でロケをする旨を伝えると、「もともと、この宿をイメージして漫画を書いた」と言われ、驚きました。
「そんな話聞いてないぞ!(笑)」と、わたしが返信すると「聞かれてないし!」と返ってきました。私もロケ地を探す段階で、髙橋さんに確認しておけばよかったと少し反省しました(笑)。こういう経緯もあり、わたしはこの旅館に対して運命的なものを感じました。
――銀鱗荘の魅力について教えてください。
北村 : 海岸部に位置し、屋根が瓦の旅館は全国探しても、なかなかありません。海が一望できるロケーションも素晴らしい。どしっとした門構えも正面から撮影したとき、とても画になります。旅館の中も芸術的です。
歴史と伝統を刻んできたオーラのようなものは、セットを組んで真似できるものではありません。映像の中でその雰囲気を出すことができて良かったと思います。
――実写化するにあたり、意識された点は?
北村 : 原作の漫画は4巻あり、すべての話をまとめると12時間くらいかかってしまいます。実写化を決めた時点で、原作の話の中で変えないといけない部分はどうしても出てくると思いました。その中で、髙橋さんに対してのリスペクトを持った上で構成を行いました。結果的にそれがうまくいったと思います。
最終的に漫画のほうが良かったと言われてしまうと、何のためにやっているんだという話になります。でも、映画の方も漫画に負けないくらいの出来栄えになっています。映画館に足を運んでいただき、その場所でしか得ることができない表現と体験をしてもらうための工夫は常に考えています。
――撮影の中で、大変な部分はありましたか?
北村 : ラスト3分は大変でしたね。もちろんすべてのシーン大切ですが、最後のイルカショーは、わたしが言いたいことを1番伝える部分でもあります。
ロケを行った水族館は、年中無休で営業しているため、貸し切りができない場所でした。営業時間と並行しての撮影だったので、少ない時間でいかに効率よく撮るかを考えました。イルカの体力なども考えると、何十回もやり直しができるわけではありません。
結果、助監督にも支えられながら、満足いくラストショットを撮ることができました。音楽と映像、そして主役を務めた「のん」さんの顔すべてでグランドフィナーレを迎えるところをみなさまには見て欲しいと思います。
――「小川たまえ」演じるのんさんを起用した理由は。
北村 : 原作者の髙橋さんは、のんさんをイメージし、小川たまえを書いていると聞きました。漫画の連載は2014年に終わり、その8年後に本人が映画で命を吹き込む。これも運命を感じますよね。私も脚本を作る際、「のん=小川たまえ」にしようというぐらいの当て書きをしました。
のんさんのすごいところは、唯一無二の存在だというところです。彼女は、演技のみならずファッションや音楽活動なども行っています。独自の世界観〝のんワールド〟を持っていますよね。髙橋さんもそういう所に魅力を感じ、イメージして書いたのかと思います。かつてないほどのハマり役になったと思います。この役柄は彼女しか考えられませんでした。また、門脇麦(天間かなえ役)さんと大島優子(天間のぞみ役)さんには、のんさんの腹違いの姉役を演じていただきました。おのおの役柄を原作に忠実に演じてくれました。
――ほかにも、豪華キャストが役を演じています。
北村 : みなさんはプロなので、ほぼ100点の状態に役を仕上げ、撮影現場へ来てくれました。それを120点にするアイデアを出すのが私(監督)の仕事です。すると、キャストの方々は、さらに120点を上回る演技で返してくれました。現場では積極的に意見交換できる雰囲気づくりを心がけていたので、とても良い空間で撮影を進めることができました。
北村 : キャストの方々は自らのセリフに意見を言うことが多いです。しかし、柴咲コウ(イズコ役)さんは、ほかの役のセリフに対してもアドバイスをしていました。もともと私は仲も良かったので、「そこは柴崎さんのセリフじゃないだろ!(笑)」と、ツッコミを入れてしまいました。でも、それくらいアイデアが飛び交う現場がハリウッドでは当たり前です。日本の映画もそうやって積極的に意見を言い合うべきだと思っています。
北村 : 三田佳子(財前玲子役)さんは、天間荘に長期滞在する老婦人役です。あるタイミングでサングラスを外すシーンがあります。カットの声が掛かると思わず「素晴らしい」と声を出してしまいました。現在、NHKの大河ドラマにも出演している山谷花純(芹崎優那役)さんとは、「60年後、あんな演技ができるようになれますか?」という話をしました。三田さんは長きにわたり銀幕のトップランナーを走り続けた大スターです。日本映画界の宝だと思います。そのような方と映画を一緒に作ることができる幸せをかみしめました。
――感動する作品に仕上がっています。
北村 : 映画を見ていただいた多くの方から「泣けた」という声がありました。泣かせる演出を一切していないので、意外な反応でした。みなさまの心に触れて、自然と涙がこぼれる。そういう作品が完成したことはとても良かったと思います。
――生と死について考えさせられるストーリーになっています。
北村 : 当たり前のことですが、人間は生まれたら必ず死が訪れます。それだけは、ごまかすことができません。しかし、その終わりについて真剣に考えると、とてつもなく怖くなります。嫌になります。家から出たくなくなります。でも、家から出なくても何か巨大な物が落ちてきて死ぬかもしれません。
現代はコロナや地震、戦争といった言葉が飛び交っています。何が起こるか分からない時代だからこそ、「生きてて笑える1日1日がギフト」と髙橋さんは伝えたかったのではないでしょうか。人生はつらいときもあるが、そんなに悪いものじゃないということを伝えたくて、私はこの作品を手掛けました。
宇宙から見た地球はとても小さいです。そこに住む人間はさらに小さい。わたしは映画を見てくれた方に「それだけ、小さくてもみんな一生懸命生きている」というメッセージも伝えられたらいいなと思っています。