【不定期コラム・編集長のつぶやき】第3回・近道、回り道

©財界さっぽろ

 昨晩、イチローさんと松井秀喜さんの対談がテレビで放送されていました。メジャーリーグもデータが重宝され、選手たちが自らの頭で考えなくなった。ゆえに、野球がつまらなくなったという指摘がありました。雑誌の編集記者にとって、読者の方々から「つまらない」と烙印を押されることが痛恨の極み。どんな言葉よりも心にグサリと刺さります。

 それは置いといて、私はお二方の言葉は現代社会への警鐘と受け止めました。 

 いまやすべての場面において〝効率性〟が重要視されます。無駄なことはなるべくやりたくない。はやく結果、答えが欲しい。とくに若い世代に顕著な印象を受けます。何にせかされてそんなに生き急いでいるのでしょうか。

 そう考えた時、記者の日々の活動はいまの時代に逆行しているかもしれません。ネタがあり、取材を経て、記事というゴールに辿り着きます。長方形をイメージしてみてください。たとえば、対極の角が「記事化」というゴールだとします。対角線に進むのが最短の近道です。その一方、辺をたどれば遠回りになります。

 記者としてどちらの道を歩むべきなのか。私の答えは後者です。記者の第一の仕事は記事を書くことではなく、人に会うことです。どれだけ多くの関係者に話を聞いた上で、記事を執筆するのか。内容の深み、調査報道の熱量につながります。

 通常、記者が取材対象者に会う場合、何を聞きたいかを事前に考えて出向きます。ところが、実際にお会いして話していると、「こっちの話の方が面白いじゃないか」というケースが、往々にしてあります。当然、人に会えば会うほどその確率が上がりますが、それだけ時間も費やします。対角線ではなく、回り道の辺にこそネタが転がっている可能性が高いのです。

 もっと言えば、その際に聞いた話は、執筆記事には関係なくても、決して無駄になりません。歩きながら拾い集めた種は必ず花が開く瞬間が訪れます。そういえばあの時、こう言っていたなぁ~と。

 私も若い頃、先輩記者にこう尻を叩かれました。

「毎日、午前中と午後に最低1人と会いなさい」と。

 ネットサーフィンをしたところで、特ダネ、スクープは見つかりません。その時点で、すでに二番煎じの話題ですからね。人に会う努力を惜しまない。営業職など、どんなビジネスパーソンにも共通する心構えではないでしょうか。

こちらもおすすめ