【独自・無料公開】10/27投開票・衆院選北海道内“最深”情勢〈2〉4区・5区・6区【財界さっぽろ編集部総力取材】

小樽運河
財さつJPでは、公示中の第50回衆議院総選挙について、4回に分け、北海道内12の小選挙区と比例道ブロックの終盤情勢をお届けする。2回目の今回は4区、5区、6区について。以下、文中すべて敬称略。顔写真や各候補の訴えは公式WebサイトやSNSなどのリンクを用意したのでそちらを確認されたい。現在行われている期日前投票、27日の投票日に向けて参考にしてほしい。
(文中の政党略称=自民→自由民主党、立憲→立憲民主党、維新→日本維新の会、公明→公明党、共産→日本共産党、国民→国民民主党、社民→社民党、れいわ→れいわ新選組、参政→参政党、保守→日本保守党、大地→新党大地)
〈4区〉=札幌市西区の一部・手稲区、石狩市、小樽市、島牧村、寿都町、黒松内町、蘭越町、ニセコ町、真狩村、留寿都村、喜茂別町、京極町、倶知安町、共和町、岩内町、泊村、神恵内村、積丹町、古平町、仁木町、余市町、赤井川村
中村 裕之(なかむら・ひろゆき)1961年2月23日 前職(4期)自民公認、公明・大地推薦
衆議院原子力問題調査特別委員長、党道連会長、元農林水産副大臣、元道議会議員
https://www.hiro-nakamura.jp/
大築 紅葉(おおつき・くれは)1983年10月16日 前職(1期) 立憲公認
国会対策委員会委員・委員長補佐(報道担当)、元フジテレビ記者
https://kurehaotsuki.jp/
佐々木 明美(ささき・あけみ)1960年12月21日 新人 共産公認
党札幌西・手稲地区常任委員、元札幌市議
https://www.facebook.com/akemi.sasaki.1656
斎藤 佳代(さいとう・かよ)1983年4月5日 新人 無所属
元静岡市議
https://www.saitokayo.net/
道内小選挙区で、最大の注目区といっていい。
自民候補の中村裕之は道連会長に就任した2023年6月、「財界さっぽろ」8月号のインタビューで率直な思いを明かした。
「おめでたいというか、わからないというのが、正直なところです」
政治は権謀術数巻く世界である。中村は根がまじめ。裏表がなく、本音を隠すことが苦手。どこか憎めない“いい人”中村が、ついつい口にしてしまった偽らざる気持ちだったのではないか。
中村は前回選挙が薄氷の勝利だった。次点との票差はわずか696票。土俵際まで追い詰めたのが、立憲の大築紅葉だった。大築は小樽市、手稲区、西区で勝利。中村は圧倒的に自民が強い後志郡部の貯金で、何とか逃げ切ったのだった。
「大築さんは物おじしない性格なのか、中村さんのポスターを貼った潮陵高校OBが社長の会社を訪問。『先輩、お久しぶりです。元気ですか』とやってのける。街頭でマイクを握れば、元記者だけあって、演説の中身が整理されていて、わかりやすい。早口になった時は若干聞き取りにくくなるが、声も遠くまで通るんです」(小樽の立憲関係者)
比例復活を果たした大築は、小樽市内に新居を構え、子供2人は市内の小学校に通学。地元を精力的にまわっている。
中村陣営も若手、女性票の獲得に力を入れてきた。小樽後援会は今年に入り、メンバーを絞り込み常任幹事会を設置。月1回のランチミーティングを始めた。選挙に向けた課題など共有、分析してきた。
「中村さんのウィークポイントは若年層への支持拡大だ。後志自動車道の予算付けや札樽道の利便性の向上は、中村さんがいなければ難しかった。こうした実績をアピールしても若い世代には響かない。そこで、後援会のリーフレットを若い世代に作成してもらっている。実績を羅列するだけではなく、中村さん自身の魅力を20代、30代、40代を中心に伝えていきたい。何とか小樽で相手候補より、得票を上回りたい」(小樽後援会幹部)
さらに、子育て世代も意識する。
「選挙前、手稲の自民関係者が運営する認定こども園では、中村さんがお迎えの時間帯に出向き、『おつかれさまです』と挨拶している」(地元関係者)
今回の衆院選では区割り変更により石狩市が4区に編入され、中村、大築両陣営の草刈り場と化している。石狩は無党派層が多い地域のため、編入は「大築に有利」(前出政界関係者)という見方が大勢。だが、その一方「石狩の経済界で中村さんの評判は上々だ」(石狩市内の経済人)という声もある。
中村にとって気がかりなのが公明との関係。同市・厚田地区には、公明の支持母体・創価学会の聖地と呼ばれる施設があり、公明の影響力が強い地域として知られる。
「10区は自公協力で公明の稲津久さんが候補になっている。しかし昨年、道連会長として中村さんは『公明が稲津さんの後に同区に候補者を擁立することはない』と発言した。中村さんの軽率な言動は道内の学会首脳の怒りを買った。中村さんは学会詣でを行い、関係修復に努めてきたが……」(公明関係者)
中村には強力な援軍もいる。18日には総理の石破茂が4区入り。21日には経済安全保障大臣の城内実と自派閥の親分である麻生太郎が応援に駆けつけた。22日には総裁選で自身が推薦人の1人となった高市早苗も西区と手稲区で街頭に。24日には経済産業大臣の武藤容知も激励に訪れる予定だ。これだけ大臣クラスが続々とやってくるのは4区しかない。
中村陣営幹部は力を込める。「非常に厳しい選挙だが、一人でも多くの有権者に中村さんの魅力を知ってもらい、なんとか勝利したい」
大築陣営にも危機感が募っている。野党共闘が実現せず、共産が佐々木明美を擁立した。小樽は元来、同党の支持者が多い。佐々木の得票が大築の命運を分ける可能性がある。
だが、大築の後援会関係者は「地域を回っていると政権与党への強い憤りを感じる。共産と一線を画したことで、かえって大築さんに入る票もあるのではないか。前回より手応えを感じているし、大築さんに“金バッジ”をつけさせたい」と話している。
同区には無所属で斎藤佳代が出馬した。斎藤は静岡市出身。「静岡のお茶で北海道に一層の健康と活力を」というユニークな公約を掲げる。
マスコミ各社や自民、立憲の情勢調査では大築が中村をリードしている。大築は公示日、第一声の場として倶知安町を選んだ。マイクを握る背景には羊蹄山がそびえていた。このまま逃げ切り、4区の頂をつかむことができるのか。
〈5区〉=札幌市厚別区・白石区の一部、江別市、千歳市、恵庭市、北広島市、当別町、新篠津村
和田 義明(わだ・よしあき)1971年10月10日 前職(3期)自民公認、公明推薦
元防衛大臣補佐官、元内閣府副大臣、元内閣府政務官
https://yoshiakiwada.com/
池田 真紀(いけだ・まき)1972年5月24日 元職(1期)立憲公認
元東京都板橋区職員、社会福祉士
https://ikemaki.jp/
鈴木 龍次(すずき・りゅうじ)1960年4月20日 新人 共産公認
党道委員、石狩地区委員長、道5区選対本部長
https://www.jcp.or.jp/web_senkyo/cat1/0105-suzuki.html
「金権腐敗政治が5区でも起きている」
公示日、立憲元職の池田真紀は第一声で自民前職の和田義明を痛烈に批判した。池田の街宣を聞いた地元政界関係者は「池田陣営は徹底して裏金問題で攻めている」と見る。
和田は裏金問題の当事者の1人。5年間で約900万円の政治資金収支報告書での不記載があり、事後対応も遅れた。
問題発覚後、和田はお詫び行脚を地道に続けていたものの、政治資金収支報告書の修正をしたのは10月初旬のこと。石破自民新体制が裏金問題に関する選挙対応を問われている最中だった。そのため和田の裏金問題は再びクローズアップされ、各メディアが盛んに取り上げた。和田支援者は「なぜ、もっと早く報告書の訂正をできなかったのか」と残念がる。
地元事務所の所長不在が長く続いており、領収書などの資料集めに時間を要したという同情論も支援者内にはあるが、対応の遅れで裏金問題の〝傷〟が深まったことは否めない。最大の弱点である札幌市厚別区の得票に大きく影響すると見られている。
厚別区は5区の大票田。管内の他エリアよりも自民勢力が強いわけでなく、浮動票が多い地域。世論の風の影響を受けやすい。
和田の勝ちパターンは自衛隊票が多い千歳市、恵庭市で得票の貯金をつくり、厚別区の負けを埋めること。今回のような大逆風を浴び、厚別区で貯金を上回る大差をつけられると勝てない。
また、今回から白石区の一部が5区管内に加わり、和田陣営は友党・公明の力も借りながら浸透を図っているが、「明確な手応えはない」(地元自民関係者)という。ともかく劣勢挽回に和田陣営は必死。本人は告示後数日で声がかれるほど、街頭などで訴えている。情勢を心配した元秘書も駆け付け、手伝っている。
そんな中、地元自民関係者が「つくづく痛い」と悔しがるのが比例との重複立候補が認められなかったこと。石破新体制での新たな裏金問題への処分である。どんなに惜敗率が高くても、和田には救済の道はない。
石破が和田応援のため10月中旬に5区に入り、集会には1000人近い人が集まった。ただ、足元を固める効果はあったものの、情勢を覆すほどのインパクトはない。
和田は義父・町村信孝の後を継ぎ、連続当選3回。副大臣などの要職も経験し、順調に実績を積み重ねてきた。初めての正念場だ。
一方、各種世論調査で優位が伝えられる池田は、思わぬ保険も手に入れた。立憲道連が10月初旬、女性候補優遇策として池田を比例名簿の上位に位置づけたため。立憲の比例得票は大きな伸びが予想されており、仮に選挙区で負けても池田が国政復帰する可能性は大きい。
それでも池田は過去の経緯から、ゆるむことなく、勝ちに執念を燃やす。池田はこれまで5区で3度戦ったが、選挙区での白星はない。もっとも善戦したのは惜敗率95%で比例復活した2017年選挙だった。
比例復活した時、池田は「選挙区の勝ちでなければ本当の勝ちではない」という本音を報道陣に明かしていた。今回、念願の選挙区での白星を手に入れられるチャンスだ。
共産は新人の鈴木龍次を擁立。鈴木は過去2回、5区で戦ったが、当選圏内には届きそうもない。
〈6区〉=旭川市、士別市、名寄市、富良野市、鷹栖町、東神楽町、当麻町、比布町、愛別町、上川町、東川町、美瑛町、上富良野町、中富良野町、南富良野町、占冠村、和寒町、剣淵町、下川町、美深町、音威子府村、中川町、幌加内町
西川 将人(にしかわ・まさひと)1968年11月7日 新人 立憲公認
元旭川市長、元日本航空パイロット
https://nishikawa-masahito.jp/
東 国幹(あずま・くによし)1968年2月17日 前職(1期) 自民公認、公明推薦
元道議会議員、元旭川市議会議員
https://www.facebook.com/officeadumakuniyoshi/
荻生 和敏(おぎう・かずとし)1949年11月19日 新人 共産公認
党旭川地区副委員長
https://x.com/151236545
6区には自民前職の東国幹、立憲新人の西川将人、共産新人の荻生和敏が立候補するが、前回と同じく事実上、東と西川の一騎打ちだ。
前回の21年選挙、東は大票田の旭川をはじめ、管内首長選で野党トップから保守候補が議席を奪取し、これまで分裂していた保守が“一枚岩”となり、その流れに乗った。結果、西川に得票率で15ポイントの差をつけ、大勝を収めた。21年衆院選の前に士別市長選、旭川市長選が行われ、連続して自民支援候補が勝利。その勢いのまま本番になだれ込んだ。
当時の東陣営で言われた合言葉は「市長も自民、地元国会議員も自民で」。政権与党のパイプができれば国の予算がつきやすくなり、地元振興が進むという、古くからあるロジックである。
とりわけ旭川経済界は団結ムードで盛り上がり、市長に就いた今津寛介も恩返しとばかりに東を支援した。今回も今津は東支持で熱心に動く。
「今津さんは寒い中、一日中、東と街頭に街頭に立った日もあった」(東陣営の関係者)
郡部も前回とほぼ同じ雰囲気だ。東後援会のトップでもあるJAふらの農協組合長を中心に、組織的に農業票を固めた模様。防御も抜かりない。農家の戸別所得補償制度の復活を訴えている西川に対し、東陣営は各農協幹部に「西川の締め出し」を指示している。
西川陣営幹部は「面会さえ拒否される農協もある」と手を焼いている。
ただし、郡部の得票は勝敗の帰趨を握る要素ではない。
6区は南北200キロ以上ある広い選挙区だが、旭川市の有権者数が突出している。旭川だけで管内の約7割を占める。当然〝旭川決戦〟の重要性を東、西川の両陣営は知っている。
立憲は選挙戦後半の10月下旬、知名度が高い元党首の枝野幸男と現党首の野田佳彦が相次いで現地入り。東陣営は党の大物だけでなく、タレントも呼び、浸透を狙う。両陣営とも都市部に多い、浮動票を少しでも引きつけるためだ。
〝旭川決戦〟は現時点では東陣営が苦戦中と見られている。無党派層は一連の裏金問題によって今回、反自民の色が濃い。
実際、運動を手伝う自民地方議員は「前回選挙の時のような、わき上がりを現場で感じない」と危機感をにじませる。
地元の自民関係者は、旭川の企業経営者からこんな話も聞いている。「いつもなら従業員も集会に連れて行くのだが、今回はさすがに……。私や経営陣だけが出席している」と。
東はツキにも見放されたようだ。石破政権で地方創生兼沖縄・北方担当大臣に就いた伊東良孝が応援に入ったが「伊東さんは集会に大幅に遅れて到着し、参加者はしらけていた」(前出の自民地方議員)。支持率7割超えの知事・鈴木直道の旭川入りも、鈴木の新型コロナ感染で急きょ、取りやめになった。
一方、旭川決戦を優位に進めているとされる西川陣営は策を弄するのではなく、街頭宣伝の繰り返しなど基本を徹底している。東には旧統一教会系団体との接点、オーナーの建設会社で起きたコロナ補助金不正問題といった弱みがあるが、西川は道新の候補者討論会でも東への個人批判を避けた。
漏れ伝わってくる各種世論調査によると、情勢は西川が若干リードしているという。しかし前回、複数メディアの世論調査が結果的に6区ではハズレた。管内有権者の7割を占める旭川での投票率と浮動票の動向で、最終盤まで勝敗の行方はもつれる可能性も。