【独自・無料公開】10/27投開票・衆院選北海道内“最深”情勢〈3〉7区・8区・9区【財界さっぽろ編集部総力取材】
財さつJPでは、公示中の第50回衆議院総選挙について、4回に分け、北海道内12の小選挙区と比例道ブロックの終盤情勢をお届けする。3回目の今回は7区、8区、9区について。以下、文中すべて敬称略。顔写真や各候補の訴えは公式WebサイトやSNSなどのリンクを用意したのでそちらを確認されたい。現在行われている期日前投票、27日の投票日に向けて参考にしてほしい。
(文中の政党略称=自民→自由民主党、立憲→立憲民主党、維新→日本維新の会、公明→公明党、共産→日本共産党、国民→国民民主党、社民→社民党、れいわ→れいわ新選組、参政→参政党、保守→日本保守党、大地→新党大地)
〈7区〉=釧路市、根室市、釧路町、厚岸町、浜中町、標茶町、弟子屈町、鶴居村、白糠町、別海町、中標津町、標津町、羅臼町
鈴木 貴子(すずき・たかこ)1986年1月5日 前職(4期)自民公認、公明推薦
党青年局長、元党副幹事長、元外務副大臣、元防衛政務官
https://www.suzukitakako.jp/
篠田 奈保子(しのだ・なおこ)1972年2月5日 新人 立憲公認
弁護士、道セーフティネット協議会代表理事
http://shinodanaoko.com/
これまで7区では、自民現職の伊東良孝が強さを発揮してきた。2009年の衆院選初出馬以来、5戦負けなし。
だが、今回、戦況は大きく変化した。伊東は比例(1位)に周り、鈴木貴子が7区から出馬した。告示直後、各メディアの世論調査は「鈴木有利」を伝えた。しかし、選挙戦中盤になり、全国的に「政治とカネ」の問題が尾を引き、自民に猛烈な逆風が吹く。自民が盤石とみられた7区と12区、5区も大激戦で、黄色信号がともっている。
これまで7区の自民内では、伊東と鈴木貴子の公認問題が長らく対立の火だねとなってきた。伊東、鈴木宗男の遺恨に起因してのものだ。
貴子は17年に自民入り。それ以降に行われた2回の衆院選は伊東が小選挙区から出馬し当選。鈴木は比例ブロックで上位優遇され、期数を重ねた。
ところが昨年3月、〝地殻変動〟が起きる。伊東が次期衆院選で選挙区を鈴木貴子に禅譲すると発表。鈴木貴子が新支部長に就いた。今回の衆院選で、伊東は比例ブロック1位で優遇され、鈴木貴子は7区から5期目を目指す。
立憲は2回目の挑戦となる新人の篠田奈保子が支持を広げている。篠田は弁護士として、貧困問題など〝弱者を救う〟活動に力を入れてきた。そのため、「道内のほかの選挙区よりも地元共産と良好な関係を築いてきた」(7区立憲関係者)
今回の衆院選で野党共闘は不調に終わり、共産は道内でも小選挙区に独自候補を多数擁立した。しかしながら7区は、擁立作業が難航し、断念せざるを得なかったということもあるが、篠田には共産の不出馬は追い風だ。
立憲7区総支部は今回、同党道連に比例優遇を求めた。しかし告示直前まで道連サイドは比例優遇に否定的だった。
ところが衆院選本番を翌日に控えた10月14日、急転直下の展開をみせる。対応を一任されていた道連会長の逢坂誠二が、7区の篠田と5区の池田真紀の比例ブロック1位で優遇することを決断する。
これにより、篠田は比例当選がほぼ確定となった。
そのため、「篠田選対は過去の選挙戦とは比べものにならないほど、雰囲気がいい。選挙戦が進むにつれ、自民が『政治とカネ』の問題で支持を下げていることも相まって、篠田支持が伸びていることを実感している」(7区立憲関係者)
比例優遇されたことで、篠田陣営のゆるみを心配する声はあるが、「小選挙区で鈴木貴子に負けたとしても、みっともない惜敗率で比例復活はできない」(前出関係者)と引き締める。
話題を鈴木貴子に戻すが、大票田の釧路市では、10月27日は衆院選のほか、市長選、道議選の〝トリプル選〟となっている。市長選は現職の蝦名大也と、釧路市選出道議2人(笠井龍司、鶴間秀典)が出馬。
道議2人が市長選に転じたことによって、補欠選挙が行われる道議選(定数3、欠員2)は、自民と立憲が1議席ずつを分け合い無投票だった。自民で初出馬初当選を飾ったのは、釧路市議(3期)で伊東良孝の子息・尚悟だった。
注目されるのは、市長選の行方だ。5期目を目指す現職・蝦名は、鈴木宗男の元秘書。自民、公明、大地が蝦名市政を支えてきた。
道議時代の笠井は伊東の支援を得ていたとされる。鶴間はこれまで政党にとらわれない草の根選挙を展開してきた。
各メディアの世論調査などでは、「現職・蝦名が大きく上位2人に引き離されて3番手で、笠井と鶴間が競っている」(地元政界関係者)という。
「鈴木貴子にとって、関係が良好な蝦名がまさかの3番手という情勢は痛手だろう。そもそも、蝦名と笠井で自民系2人が出たことで、鈴木貴子は市長選との連動ができなくなったことも、結果として、自身の支持拡大を妨げている」(地元自民関係者)
鈴木貴子へ選挙区を譲った伊東良孝は、これまで地元が伊東派、鈴木派に分裂していたことを踏まえ、「大同団結して鈴木貴子を支援する」と訴えたが、石破内閣発足で地方創生・沖縄北方領土大臣として初入閣したことで、自身の7区入りは限定的なものになっている。
鈴木宗男の動きも、鈴木貴子陣営には不安がある。
「鈴木宗男が維新を離党して以降、すぐに娘の代理として地元の会合に積極的に出席するなどしている。こうした行動を伊東の支援は快く思っていないというのが本音だろう」(地元自民関係者)
10月23日には釧路市で鈴木貴子の総決起集会が行われた。
「鈴木宗男、伊東良孝、市長選に出馬している蝦名、笠井らが出席し、盛り上がりはしたものの、世論調査の結果を踏まえると、もっと危機感をあおる雰囲気になってもよかったのではないか」と地元政界関係者は話している。
〈8区〉=函館市、鹿部町、七飯町、森町、北斗市、木古内町、知内町、福島町、松前町、上ノ国町、厚沢部町、江差町、乙部町、八雲町、せたな町、今金町、長万部町、奥尻町
逢坂 誠二(おおさか・せいじ)1959年4月24日 前職(5期)立憲公認
立憲道連代表、党憲法調査会長、元総理大臣補佐官、元後志管内ニセコ町長
https://ohsaka.jp/
向山 淳(むこうやま・じゅん)1983年11月19日 新人 自民公認、公明推薦
元三菱商事社員、政策シンクタンク代表
https://junmukoyama.jp/
本間 勝美(ほんま・かつみ)1968年10月22日 新人 共産公認
党函館地区委員長、党道委員、元函館市議
https://www.jcp.or.jp/web_senkyo/cat1/0108-honma.html
小選挙区比例代表並立制が導入されて以来、8区で自民は10戦して1勝しかしていない。今回も立憲現職の逢坂誠二が自民新人の女性候補・向山淳を一歩リードしているようだ。
函館国際ホテルで10月18日、向山の決起集会が行われた。国会議員の弁士はいなかったが、会場には2500人が駆けつけた。
「動員された人が多いのだろうが、前支部長の前田一男さんの時にはこの集客力はなかった」とメディア関係者は驚く。
埼玉県出身の向山は2歳から中学卒業まで海外で暮らした。慶應義塾大学を卒業し、三菱商事に入社。その後、政治家を志し、アメリカ・ハーバード大学に私費留学。政府のコロナ対応の検証やデジタル政策の立案を担った。
「道南を生涯のふるさととする」と掲げ、老人ホームや町内会などを回り、じわじわと支持を広げてきた。
前出の決起集会に対して、批判的な見方もある。
「この時期にハコモノで動員をかけてどうするのか。人を集めるのも楽ではないのだから、どうせなら街頭で訴える方に力を注ぐべき」(自民支持者)
一方、現職の逢坂は党代表代行や党代表選への出馬経験もあり、現在も立憲道連代表を務める。知名度は抜群だ。地元支援者からの信頼も厚い。
函館駅前の街頭演説では、支援者がアイドルコンサートのように色とりどりのペンライトを振って逢坂を出迎えた。
加えて、今回は比例代表との重複立候補を取りやめ、〝背水の陣〟を強調。
「逢坂さんは選挙の〝見せ方〟がうまい。ハードルを課すことで有権者の応援をうまく引き出している」と地元関係者も舌を巻く。
ただし、逢坂陣営も楽勝ムードではない。野党共闘が成立せず、共産・本間勝美が立候補したことは痛手だ。
「向山さんは新人ということもあり、政策に具体性が足りない。それでも、以前より差は縮まってきています。『逢坂さんは大丈夫』と思われて、投票率が下がるのが一番こわいですね」と逢坂陣営は警戒を緩めない。
また、8区内では、函館市長・大泉潤の動向に注目が集まっていた。公示日当日は副市長2人が向山・逢坂の陣営に顔を出し、大泉自身は姿を見せなかった。
昨年の市長選で、自民は現職候補に推薦を出し、立憲は大泉を支持。結果は大泉の圧勝だった。
市長選後、自民道連幹部は大泉に「政権与党として市政を支えるので逢坂さんの応援には行かないでほしい」と伝えた。
市長選出馬時には、現職と大泉との与野党対決の構図となったが、自民内にも大泉を応援する声はあった。かつては、「大泉を自民党の衆院候補に」という声もあった。
立憲としては、大泉の応援があれば百人力だったが、向山だけの応援に入られるのは避けたいところ。結果、大泉は〝等距離外交〟を保っている。
〈9区〉=室蘭市、苫小牧市、登別市、伊達市、豊浦町、壮瞥町、白老町、厚真町、洞爺湖町、安平町、むかわ町、日高町、平取町、新冠町、浦河町、様似町、えりも町、新ひだか町
山岡 達丸(やまおか・たつまる)1979年7月22日 前職(3期)立憲公認
党副幹事長、党総務局長、元NHK記者
https://yamaoka-tatsumaru.com/
松下 英樹(まつした・ひでき)1990年9月6日 新人 自民公認、公明推薦
会社役員
https://www.hideki-matsushita.com/
立野 広志(たつの・ひろし)1957年4月23日 新人 共産公認
党室蘭地区副委員長、元洞爺湖町議
https://jg2l5.hp.peraichi.com/
「この選挙が意味するものは私の勝ち負けだけではありません。北海道9区が、一連の事件を受けてどういう思いを形にしていくのか、私たちがどういう姿勢で臨んでいるのか、それが問われているんです」
苫小牧駅前での街頭演説で、立憲現職の山岡達丸はマイクを握る手に力を込めた。自民9区支部長だった堀井学の不祥事騒動を受けての発言だった。
堀井問題の経緯はこうだ。
6月下旬、堀井(北海道ブロック比例)が衆院選不出馬を表明した。秘書の横領や政治資金不記載、日常活動の不足、さらには説明が不十分だ――などと地元支部や支持者、有権者から激しい反発を受け、追い込まれた末の決断だった。
堀井はこの後、一連の事件の責任を取って議員辞職。公選法違反と政治資金規正法違反により、罰金100万円と公民権停止3年の処分を受けた。
後任の支部長選定をめぐっても会議は荒れに荒れ、自民9区支部の混迷は深まるばかりだった。
9月8日に行われた支部長(9区候補)選考委員会の投票では、会社経営者の松下英樹が最多票を獲得した。しかし、候補者の一人に対し、道議から評判をおとしめる不適切な発言があったとして、投票をやり直す事態となった。
9月29日に行われた再投票では、再び松下が1位となり、党本部に推薦をあげた。自民から松下に公認が出たのは10月8日。翌日には衆議院が解散し、瞬く間に選挙戦に突入した。
「会社経営者としてプレゼンなどをやっていたこともあり、演説はなかなかうまい。しかし、あまりにも時間がない」と地元自民関係者は嘆く。
選挙スタッフも最低限の人数で回しており、準備が足りていないのは明らかだ。
「大変なときに手を上げてくれたことに地元は感謝しているだろう。松下さんは34歳と若い。今回は辛酸をなめることになったとしても、この経験は次回に必ず生きてくるはず」(自民関係者)
一方、山岡は優位に立っている。2012年の衆院選から9区で活動している山岡は、地域の事情にも明るい。演説では、苫小牧駅前の再開発の状況や、グリーントランスフォーメーション(GX)の現状、コロナ対応など、自身の実績を訴える。
また「勝ち方が問われている」と山岡陣営幹部は語る。
ただし、共産が元洞爺湖町議の立野広志を擁立したことの影響は小さくはない。共産党は9区に21年の選挙を除いて候補を擁立し続けてきた。17年の衆院選では約3万5000票を獲得している。
12年、14年、17年と山岡は堀井に3連敗。12年、14年は比例復活もできなかった。
「決して楽観できる状態ではない。地域全体として裏金を許さないという声を形にするためにも、気を引き締めてやっていく」(前出山岡陣営幹部)