【配信限定】年の差道産子結婚、帯広出身女流棋士・渡部愛が5年前に明かしていたお相手との“出会い”

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渡部愛女流三段

 日本将棋連盟が14日、野月浩貴八段(50)と渡部愛女流三段(30)の結婚を発表した。野月八段は札幌出身、渡部女流三段は帯広出身で、道産子棋士のカップルだ。
 「財界さっぽろ」では、渡部女流三段が女流王位だった2019年にインビュー。野月八段との関係性について明かしていた。以下、2019年4月号掲載のインタビュー記事。

将棋の勉強のために音更から札幌に

 渡部愛さんは1993年、帯広市生まれ。鈴蘭小学校、下音更中、北海高校卒。2013年にプロ入り。17年に女流二段。昨年の女流王位戦(5番勝負)で、女流棋界で圧倒的な強さを見せる里見香奈さんを破って初のタイトルを獲得した。趣味はサッカー観戦、チェスなど。
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 ――小学校2年から将棋を始め、地元の和田輝夫先生の将棋教室に通っていたと聞きました。

渡部 : 和田先生はアマチュア6段の免状をお持ちで将棋連盟十勝支部で活動をされていました。普及にとても熱心な方で、私も小学校3年生の時から教室に通い始め、4年生からはご自宅でも指導を受けるように。
中学校を卒業して札幌に引っ越すまで、ずっとお世話になりました。

 ――引っ越すきっかけは。

渡部 : 将棋の勉強のためです。中学3年生の時から月に1、2回の頻度で上京して将棋の勉強をしていました。中学卒業を機に東京に引っ越すという案もありましたが、両親と話し合い、札幌なら飛行機の便がたくさんあるから便利がいいということで。母と一緒に札幌で暮らし始めました。

 ――北海高校を進学先に選んだのはなぜですか。

渡部 : 北海高校はサッカーや野球の強い高校として有名です。スポーツと勉強との両立を応援している校風ですから、将棋との両立もしやすい環境だと考えました。

 ――勉強は得意でしたか。

渡部 : フフフ、そこは普通ということで。

 ――好きな科目は。

渡部 : 数学ですね。数Ⅲ(微分積分など理系学生向きの分野)の授業も取りました。

 ――将棋のプロを目指していたことを同級生は知っていたのですか。

渡部 : 当時は土曜日も授業がありましたが、私は将棋の用事で欠席する時がありました。それで次第にバレました。最初は驚かれましたね。

 ――そもそも、いつからプロを志したのですか。

渡部 : 振り返ると、本格的に考え始めたのは中学2年生の時です。地元で中井広恵先生(女流六段、稚内市出身)と香落ち(ハンデ対局)で指す機会があり、その時からプロへの憧れが目標に変わりました。

 ――〝中井塾〟に参加したそうですね。

渡部 : ええ、夏休みの時期の合宿にも参加しましたし、中井先生の研究室用の部屋に泊まり込んだことも。本当にお世話になりました。

 ――では中井門下生。

渡部 : ただ、正式に子弟関係の手続きをしたわけではないので、残念ながら対外的には師匠とは言えないのです。でも、私の気持ちの中では間違いなく中井師匠です。

 ――2013年7月に女流プロとして日本将棋連盟からも認められました。

渡部 : それまでの女流棋士とは違う形でプロになったので複雑な思いもちょっとありましたが、なにより公式戦に出場できることの楽しみが大きかったです。

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 渡部さんは日本将棋連盟から独立した日本女子プロ将棋連盟(LPSA)に所属。中井女流六段がLPSAの初代代表理事だった。かつて両団体の間でプロ認定を巡り、論議があり、渡部さんは約1年間、出場できる棋戦が限られた。
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 ――昨年の女流王位戦第一局は札幌の京王プラザホテルで開かれ、LPSAの中倉宏美代表理事(女流二段)が「渡部さんにはいろいろ苦労をさせてしまった」と大盤解説会の檀上で話していました。葛藤もあったのでは。

渡部 : 早く公式戦に出場したい。当時は、その思いが一番でした。将棋連盟の研修会に入ったほうがいいのでは、というご意見もいただきました。でも、やっぱり中井先生に憧れ、この道に入ったので。

昨年の女流王位戦、札幌対局で勝ち星

 ――昨年の女流王位戦第一局は劇的な逆転勝利でした。大盤解説会に、地元の十勝から駆けつけた人もいらっしゃいました。

渡部 : いつも応援をいただき、ありがとうございます。この場をお借りしてあらためてお礼を申し上げます。後で大盤解説会にいらした方に聞いたのですが、いっとき会場がお葬式みたいなムードになった、と。内容としては反省点の多い一局でした。ただ、地元・北海道での1勝は、私にとって大きな勝ち星でした。

 ――余談ですが、中倉代表理事が渡部女流王位のおっちょこちょいな一面も紹介され、会場は笑いが起きていました。対局日の朝、オートロックのホテルの部屋から締め出されたそうですね。

渡部 : あっ、その話も中倉先生はされたんですか(笑)。ホテルの自室で朝食をいただいた後、トレーを廊下に出した時でした。部屋の鍵を持ち忘れてしまって。普段はルームサービスを頼みませんし、緊張であまり眠れずに迎えた朝でしたので少しボッーとしていたのかもしれません。

 ――先日、床に落ちたモノを拾い上げた瞬間、顔面をドアに強打した話をTwitterで読みました。

渡部 : その話もご存じで。実は、まだ鼻がちょっと痛いんですよ~(笑)

 ――昨年の女流王位戦の話に戻します。第4局目に勝ち、初のタイトルを手にしました。対局後の取材で涙ぐんだ瞬間がありました。あの時はどんな思いだったのですか。

渡部 : プロになるまでの話の流れで質問を受けたので、いろいろな思いがこみ上げてきました。
 ただ、挑戦者に決定してからは里見香奈さんとどこまで戦えるか、それだけをずっと考えていました。里見さんとはそれまで対局したことがありませんでしたから、純粋に里見さんと将棋を指せることを楽しみにもしていました。
 ですから、あの時はうれしさというよりも、ホッとしたというような……

 ――やりきった、という感覚ですか。

渡部 : そうですね。その気持ちが大きかったです。

 ――タイトルホルダーになってから生活や気持ちの上で変化は

渡部 : 生活はあまり変わっていませんね。変わった点と言えば、やはり男性棋戦に出場できるようになったことです。自分の将棋を注目していただける機会が増えたわけですから、より気持ちを引き締めていかなければと。

コンサのファン、今季開幕戦も観戦

 ――普段の生活についてお聞きします。料理好きのイメージがありますが、東京での1人暮らしは何年目ですか。

渡部 : たしか8年目だと。けっこう自炊をしているほうだと思います。

 ――サッカー観戦が趣味と聞いています。

渡部 : 中学生ぐらいの時から、よく家族でサッカーの試合をテレビ観戦をしていました。高校生の時、携帯電話の待ち受け画面をトーレス(フェルナンド・トーレス、元スペイン代表)にしていました。でも、スタジアムに足を運ぶようになったのは最近です。

 ――先日の対局では、コンサドーレのキャラクター「ドーレくん」の巾着が、中継画面に映り込んでいました。コンサドーレのファンとしてHBCの「もんすけTV」にも出演していましたね。

渡部 : グッズも集めていますが、ファンとしてはまだ初心者です。

 ――コンサの試合観戦に行かれたことは。

渡部 : 何度か。応援で飛び跳ねるのは結構、楽しいんですよ。ゴール裏のサポーター席にも行ってみたい。2月23日の今季開幕戦のチケットも買うつもりです(編集部注・取材日は2月15日。渡部さんは開幕戦をスタジアムで観戦した)。

 ――コンサの中で気になる選手はいますか。

渡部 : 同い年なのでチャナティップ選手でしょうか。

 ――ところで指導をしていただいている野月浩貴八段(札幌出身)もコンサドーレの大ファンですが、野月先生から指導をしていただくきっかけは。

渡部 : 野月先生とは以前から、同じ北海道出身ということでイベントなどでご一緒させていただいていました。
 相談をした時期は伸び悩んでいて何かを変えたい、と試行錯誤していて……その時、私が高校生の時に野月先生に教わったことを思い出しました。私の弱点を的確に指導してくださった。
 それで思い切って連絡を取りました。
 八段の先生に私のような女流棋士が指導をお願いするのは、プロ棋士の世界では断られて当たり前の話です。でも、当たって砕けろの精神でした。
 メールで自分の気持ち、思いを率直に伝えました。タイトル戦に出場できる棋士になりたい。でも、勉強法で悩んでいる。どんなに厳しい指導でもついていきますと。

 ――野月先生の反応は。

渡部 : 野月先生は私のやる気、本気度を確認された上で、同郷のつながりということもあって、快諾をしてくださった。
 1カ月に1回のVS(2人だけで練習対局と研究をおこなう勉強方法)以外に、電話でアドバイスをいただいたり、私の対局の棋譜(指し手の記録)もチェックしてくださったり……多くの時間を割いていただき、本当に感謝をしています。

 ――謝礼とかは。

渡部 : いえ、無償で指導をしていただいています。野月先生からは、北海道の将棋界を盛り上げることで返してくださいと。

防衛戦の帯広対局は和服で臨みたい

 ――さて、4月下旬から女流王位として初めて臨む防衛戦が始まります。

渡部 : 2月に入ってからはタイトル戦に向けて家にこもって将棋の勉強をする日を増やしていっています。

 ――(取材日の時点で)挑戦者はまだ決定していませんが、今の心境は。

渡部 : どなたが相手に決まってもいいように全体的な棋力の底上げに努めていきたい。

 ――今回の女流王位戦では、2局目(5月8日)の開催地が帯広で対局場は「とかちプラザ」です。

渡部 : タイトルホルダーとして故郷で対局する機会はそうそうありません。
 しかも対局場の「とかちプラザ」は、地元の将棋連盟の活動拠点なんです。私も小学生時代から、大会などに出場するために通った場所。とても思い入れがあります。
 実は帯広での対局では和服を着ようと考えています。

 ――これまでの対局では洋装が多いですよね。

渡部 : 女流王位戦は服装の自由度が高く、やっぱり一生に一度あるかないかの機会ですから。白瀧あゆみ杯で優勝した時にいただいたものの、まだ一度も袖を通していない着物を着ようと思っています。

 ――着付けはご自身で。

渡部 : まだ決めていませんが、白瀧呉服店さんに通い、なんとか形だけでも覚えようと思っています。でも私のことですから、対局当日の朝になって結局、自分でできなくて、洋服になるかもしれません(笑)

 ――おっちょこちょいが発揮され、着物を持ってくるのを忘れるかもしれませんよ。

渡部 : (笑顔で)足袋も忘れないようします。もし当日、和服を着ていなかったら、忘れものをしたと思ってください(笑)

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