【インタビュー】ダイビル常務 山田 一彦

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ダイビル常務 山田 一彦 氏

札幌の街に新しい風を吹きこみたい

商船三井グループの不動産事業中核会社・ダイビルが10月9日で創立100周年を迎えた。札幌進出は4年前。現在は「ダイビルPIVOT」建て替えを中心に、地元に根ざすべく奮闘を重ねる。札幌事業部担当の山田一彦氏に話を聞いた。

再開発にかけられる地元からのまなざし

――ダイビルは10月9日に創立100周年を迎えました。

山田 : 当社は1923年に大阪中之島で創業した、オフィスビル賃貸業を主業とする会社です。国内では大阪・東京・札幌に計31棟のビルを所有し、海外ではベトナム・オーストラリアに計3棟を所有しています。
2022年4月には、72年間続けてきた上場に幕を閉じ、商船三井の完全子会社として新たな一歩を踏み出しました。商船三井にとって不動産事業は注力施策の一つ。当社にも高い期待が寄せられています。
札幌には19年11月に進出し、南2西4にある「PIVOT」「ペンタグラムビル」「桂和MTビル」を取得。それぞれ「ダイビルPIVOT」「ダイビルPIVOT西館」「ダイビルPIVOT南館」と名称を改めました。その後、20年1月に札幌事業室(現札幌事業部)を開設しています。
現在では「札幌ダイビル再開発プロジェクト」を推進しています。札幌事業部には5名の社員が常駐し、プロジェクトを進めています。

――4年間を振り返って。

山田 : 取得した3物件は、大型百貨店や専門店、ブランドショップ等の路面店が集積する札幌市の商業エリアの中心に位置しています。
特に「ダイビルPIVOT」は、1969年に「中心街デパート」として、誕生以来50年以上の歴史を持つ建物でした。時代に合わせて生まれ変わりながら、ファッションの流行発信拠点としてエリアを盛り上げてきました。
長きにわたって札幌市民から愛され続けたそのような物件を、縁あって大阪発祥の当社が取得しました。それ故に、当初は街や地元の人々に受け入れられるのか不安でした。
札幌事業部では、積極的に地元の方々とコミュニケーションを取ることを意識しています。その結果、徐々になじんできたことを実感しています。
再開発プロジェクトにあたっては、街からの期待を大きく感じております。大阪や東京で培ってきた都市開発のノウハウを生かし、今までにない、ここにしかない、建物を造って、『札幌の街に新しい風を吹き込みたい』との想いを込めて、プロジェクトを着実に進めていきます。

新たな物件取得とラピダス事業への期待

――国内第3の拠点として札幌を選んだ理由は。

山田 : 当社の事業展開は、国内では大阪・東京のみでしたが、長らく地方中核都市への事業展開を模索していました。18年の前中期経営計画においても、「地方中核都市への投資」を掲げていました。
経済・人口の集中度の高さや、今後も安定した経済成長、人口増加及びインバウンドの伸びが見込める点から着目したのが、札幌市や福岡市などです。そこで情報収集および取得に向けた検討を進めてきました。
札幌市には、特に北海道新幹線延伸、札幌オリンピック、地震や台風や猛暑などの災害への強さなどの有望な材料がありました。
その結果、ピヴォとの貴重なご縁があり、最終的に札幌を選んだという経緯です。

――今後も道内での物件取得可能性はありますか。

山田 : 数年内にさらに2、3棟目の投資を狙っていきたいと考えています。
札幌は当社の重点エリアの一つ。すでに第3の拠点として人的リソースを割いています。加えて札幌の将来性にも期待しています。新たな物件の取得・開発に向け、検討を続けています。

――貴社の国内事業戦略には、物流施設、データセンター、レジデンス、シニア施設などを含めたアセットタイプの拡充とあります。道内でこれらの施設を取得する展望はありますか。

山田 : 当社は中心部への投資をメーンターゲットとしていますが、北海道も第3の重要拠点ですから、これらのアセットタイプも当然その検討対象です。
特に、千歳市のラピダス進出の波及効果には非常に期待しているところですね。

――ダイビルPIVOTおよび西館が今年5月に閉館しました。現在解体工事が進められていますが、新ビルはどのようなものになるのでしょうか。

山田 : 2館が閉館し、南館も11月上旬に閉館を予定しています。
24年内に新築工事に着手し、オフィス・ホテル・商業店舗が一体となった複合ビルを27年1月末に竣工予定です。
新ビルは、道内初進出のラグジュアリーブティックホテル「TRUNK(HOTEL)SAPPORO(仮称)」・ハイグレードオフィス・コワーキングプレイス・ハイブランドショップ・OYOYO BASE(オヨヨベース)の5つの機能を備えています。
低層階には商業店舗を設け、世界的に知名度のあるハイブランドの路面型旗艦店や最先端ショールームなどを並べ、魅力的で華やかな連続した路面店舗を配し、エリア価値の向上に貢献できればと考えています。
注目は、南1・2条中通り側。こちらには、オヨヨベースという名称で、地元の人々による感度ある個性が集積した地域の発信拠点を設けます。
南1・2条中通りは通称「オヨヨ通り」と呼ばれており、70年代から80年代にかけてジャズやロック喫茶、ライブハウスなどがありました。多くの若者が集う、面白くて活気ある通りだったと聞いています。私たちの複合ビルを中心に、オヨヨ通り再生のムーブメントを作れないかと考えています。
現在のイメージでは、あえて入り組んだ細かい区画とすることで、初期投資を少なく出店できるような工夫を凝らし、意欲ある若者が進出しやすい仕組みを作ろうと考えています。
例えば、若手の才能ある料理人に、こだわりの知る人ぞ知る隠れ家的なお店を出店していただいたり、地元のクリエイターによるアートや音楽の発表を行ったりといったことを想定しています。
中層階のオフィスは、当社が得意とする分野です。創立100年の歴史で培ってきたオフィス賃貸ノウハウを生かし取り組んでいきます。
オフィス階は、1フロア600坪超でありながら、小割にも対応できる大空間を予定しています。また、環境性能にもこだわり、再生可能エネルギー使用率100%や、「ZEB Oriented」取得も目指します。
コワーキングスペースの計画では、地元ワーカーに加え、クリエイターや遠方からのビジネスワーカーも利用可能な街の新たな交流拠点を計画しています。
これまで、大通エリアにはオフィスのイメージがあまりありませんでした。それだけに、チャレンジングな取り組みとなります。
高層階のホテルには、エリアのランドマークになるような唯一無二の独創的なホテルを計画しました。

時代を拓くビルを作るための対話

――地元とはどのような連携を図っていきますか。

山田 : 中核都市での開発推進には、地元の情報をしっかりとキャッチアップしていくことが肝要だと考えています。札幌事業部では、地域の皆様と魅力的なエリアづくりに向け対話を続けています。
その一環として、当社が幹事社の1社となり、「大通Tゾーン札幌駅前通地区」地区計画を策定し、22年3月には条例化に至りました。
また、100周年を記念して札幌駅や大通駅エリアに広告を出稿しています。「ダイビル」の名称をより多くの札幌市民に知ってもらうための取り組みを続けています。
この再開発は、当社の経営理念である「ビルを造り、街を創り、時代を拓く」を具現化していくプロジェクトとなります。
オヨヨベース計画は、かつてのにぎわいを知る方や、実際に活動する若い方々の存在を感じ、その声を生かしながら進んで行ければと考えています。引き続き地元の方々からのご指導、ご支援をいただけると幸いです。

山田 一彦
(やまだ・かずひこ)1963年神奈川県出身。早稲田大学卒業後、86年住友銀行入行。2018年ダイビルに入社し、執行役員、常務執行役員を経て、今年4月より取締役常務執行役員。札幌事業部などを担当。
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