【インタビュー】大雪カムイミンタラDMO 副理事長 佐藤 昌彦

大雪カムイミンタラDMO 副理事長 佐藤 昌彦 氏
アナログの視点で上川地域を稼げる観光地に!
今年6月、上川管内中部の観光地域づくり推進法人「大雪カムイミンタラDMO」(旭川市)の副理事長に、道庁OBの佐藤昌彦氏が就任した。域内の観光をどのように活性化させていくのか。佐藤氏に戦略と抱負を聞いた。
今冬は〝シルキースノー〟を求めて……
――道庁に入ってからどんな経歴を歩んできましたか。
佐藤 : よく経済畑と言われますが、8年くらい人事課にいました。経済部も観光局長は務めましたが、内部管理も長かったです。
――2021年に上川総合振興局長に就任しました。23年春の人事で本庁に戻ってくると思っていましたが、定年まで1年を残して退職しました。
佐藤 : 上川に来てから楽しくて、充実した日々を送りながら、地域を離れたくないという思いが強まった時に、当法人理事長の今津寛介旭川市長から、「一緒にやりませんか」と声をかけていただきました。
あとは、自分の人生のデザインだけでした。先を考えたら、自分の好きなことに取り組む時間は限られます。信頼されていることがとてもありがたいことです。この上川地域が大好きなので、今津市長の申し入れを快諾しました。
――大雪カムイミンタラDMOとは、どのような組織なのでしょうか。
佐藤 : DMOとは、観光庁が登録・認定する「観光地域づくり推進法人」です。観光地域づくりの司令塔として、地域の「稼ぐ力」を引き出すことが目的です。多様な関係者と協働しながら、明確なコンセプトに基づいた観光活性化の戦略を策定し、具体化していくための調整機能を備えた法人になります。
当法人は地域連携型のDMOとして17年に設立されました。前身は1948年に設立された「大雪山国立公園観光連盟」になります。現在、上川中部の旭川市・ 鷹栖町・東神楽町・比布町・愛別町・上川町・東川町・当麻町、美瑛町の9市町で構成さています。
――具体的にどのような事業を展開していますか。
佐藤 : 全国に約270のDMOがある中で、特徴的なのは、旭川市郊外にあるカムイスキーリンクスの指定管理者になっていることです。
このスキー場はパウダースノー、最近では〝シルキースノー〟と呼んでいますが、上質な雪質をウリにしています。スキー人口を増やしたり、外から呼び込んでくるための施策を打ち出しています。
――旭川は都市型スノーリゾートを目指していますね。
佐藤 : 冬場でも市内中心部から車で1時間もかからない場所に、上質な雪質を楽しめるスキー場が複数カ所ありますので、日中はスキーなどを堪能していただき、それから中心部に戻ってきて、夕食を飲食店でとるなど、夜の旭川のまちを楽しんでもらい、宿泊していただく。これが大きなコンセプトになります。
――インバウンド需要を見込んでいるのでしょうか。
佐藤 : はい。今年の12月15日から「成田―旭川便」が就航します。運航するジェットスターの親会社はカンタス航空です。今年の冬は、オーストラリアから多くのスキーヤーが訪れるのでは、と期待を寄せています。そのためのプロモーションもこれから実施していく予定です。
――旭川観光は滞在してもらうことが長年の課題です。旭川を訪れてもホテルは札幌、という観光客も多いです。
佐藤 : これまで特急列車は札幌起点に網走、稚内まで直接走っていましたが、現在では1日1往復以外は、旭川を起点に「大雪」「サロベツ」といった特急列車がそれぞれ運行するようになりました。
札幌から道北の観光に行くなら旭川に1泊という需要が増える可能性もあります。道北観光の拠点として、旭川がこれからクローズアップされてくるのではないでしょうか。
シビックプライドの醸成が大切になる
――9月には、北海道でアドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット(ATWS)が開催されました。大雪カムイミンタラDMOの「アイヌと行く歴史散策」が日帰りツアーとして、採用されました。
佐藤 : アドベンチャー・ツーリズム(AT)という視点は、ポストコロナの観光を考える上ではとても大切です。
私は道庁時代、10年から3年間、上川総合振興局で勤務し、食の仕事に携わっていました。「かみかわ食べものがたり」という企画を立ちあげました。
これは、上川で育まれた「おいしいもの」にかくされた物語を、ホームページなどで紹介し、広くPRするものです。
当時、ある百貨店のバイヤーから「これからはストーリーで売っていく時代なんです」と言われ、当初はピンときませんでしたが、いまではそうした考え方は浸透しています。
ATもまさに同じで、地域独自の自然の成り立ちや文化、歴史などを含めたストーリーに重きを置いています。
たとえば、大雪山系を源流とする水1つとっても、東川町と上川町では水質が異なります。東川は中硬水でミネラルが多く、上川は軟水といわれます。そうした水から生まれる農産物やお酒にも個性がでます。ストーリーをしっかり伝えることができれば、訪れた人たちがより深く知りたい、地域の人たちと触れあいたい、また訪れたいと。
一過性のブームではなく、ムーブメントにしなければなりません。
――そうした中、観光客を迎える側に求められることはなんでしょうか。
佐藤 : 「シビックプライド」の醸成です。つまり、そこに住んでいる方々が、その地域を愛し、誇りに思い、地域に貢献しようと思う心を意味します。
それで初めて、観光客に真のおもてなしができるわけです。その上で、地域の生活の中でATを体験していただく。持続可能で高付加価値な観光につなげていく。上川地域はそうした土壌を兼ね備えています。
今、進められている「観光DX」で、持続可能な経済社会の実現に向け、われわれDMOには、データに基づく、デジタルマーケティングによる地域の売り込みが求められています。
デジタルは様々な分野の高度化や省力化、利便性の向上には極めて有効だと思います。一方で、本当に稼ぐのは「アナログの力」ではないでしょうか。自然や文化、そして地元のみなさんの心からの「おもてなし」こそが、持続可能で高付加価値な観光を生み出していくのです。
ICTパークで人材育成に貢献したい
――大雪カムイミンタラDMOは、「ICTパーク」にも携わっています。
佐藤 : 21年、市内中心部に映画館を改装した「ICTパーク」が誕生しました。当法人はここの管理・運営を市から委託されております。
同施設の役割としては、eスポーツ大会や各種イベントの開催、プログラミングを中心としたICT人材の育成、市内の関連企業の連携による新産業創出の拠点施設です。
ちょうどイベントで、10月8日にラグビーワールドカップの日本対アルゼンチン戦のパブリックビューイングを実施します。飲食とともに試合を観戦しますので、「ナイトタイムエコノミー」にもつながります。
もともと映画館でしたので、防音設備が整っています。人が集まり、声を出せる一体感のあるイベントを実施することで、まちなかのにぎわいを創出していきたいですね。
今、特に力を入れているのは、ICT人材の育成です。
定期的にプログラミングの教室を開催しており、かなり浸透してきました。「デジタルブロック部」では、マインクラフトの楽しみを伝えています。これはパソコン画面上のブロックを組み合わせて、みんなで遊びながらプログラミングを学べるものです。建物をつくったりするので、建築の要素もあります。
年齢制限はないのですが、小学生を中心に好評です。これまでにのべ300人以上が参加しています。こうした取り組みがきっかけとなり、ITやエンジニアの分野に興味を持ってもらえたらうれしいです。
――本日はお忙しいところありがとうございました。(取材日=9月28日=)
