【期間限定無料公開】執行部の改革断行に古株教員猛反発 札幌大谷学園、労使闘争のドロ沼

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札幌大谷学園の校舎

 創立110年を超える名門私立の札幌大谷学園内で、教員と学校側の対立が深まっている。懲戒免職を受けた元教員は学校側を相手取り民事訴訟を提起。だが学校側はあくまで改革を断行するという。着地点は見えない状況だ。

懲戒処分に対する民事訴訟を提起

 札幌大谷学園は、1906年に私立女学校の「北海女学校」として創立された。48年に同校の学校法人が設立されると女子高に改組され、同時に附属中学校を設置。その後、美術科、音楽科を中心とする4年制大学や短大、幼稚園などが次々開校した。
 2008年に中学が、翌09年には高校が男女共学化。16年には創立110周年を迎えた。
 同学園の中核である札幌大谷高校には、17年3月末現在で普通科、音楽科、美術科合わせて934人(定員960人)が通う。特色である芸術系課程のほか、サッカー部や野球部、全国大会常連の女子バレーボール部、吹奏楽部など部活動も盛んだ。
 また中高の共学化と同時に、英数選抜コースを創設。中高一貫の6年間を通じて難関大学合格を目指すカリキュラムを組む、特別コースだ。設置当初から超難関大学の合格者を出し、学校関係者の間で評判になった。
 一方で、少子化の波などにより入学者数は減少傾向。とくに中学校は定員490人のところ229人(17年3月末現在)と、大きく定員割れが続いている。
 そこで同学園は、英数選抜の設置を主導した種市政己氏のもとで、15年度から「運営改革企画室」を設置した。種市氏は12年度から中高の校長を務めている。
 運営改革企画室は学内法規の整備、労務管理、経営戦略立案、教員研修など広範な役割を持つ。その中で最優先と目される業務がコンプライアンスの強化だった。結果として教職員への締め付けが強まったのだ。
 同室が設置されて以後、15~17年度にかけて複数の教員が懲戒処分を受けた。
 いずれも古株の教員。処分理由は「学校の備品を貸与したまま返ってこなかった」「部活の指導中、生徒に対する暴言があった」「部のマネージャーを監督専属にして雑用をさせた」などで、教員側にはそれぞれ一定の瑕疵が存在するのは否めない。
 だがその上で、事実関係や処分に至る過程を疑問に思った当該教員の3人は、処分は無効であるとして、労働審判を申し立てた。そのうち1人は15年に懲戒免職となったため、地位確認を求める民事訴訟も提起した。現役教員や教え子らが支援の会を立ち上げる中、1月24日には民事訴訟の判決公判がおこなわれる。

懲戒の教員は教壇に立たせない

「彼が来てから、この学校はよくも悪くも変わった」と、複数の教員が名前をあげるのが、現在運営改革企画室長を務めている藤原良司氏だ。
 もともと代々木ゼミナール札幌校の講師として、参考書を出版するなど受験指導で実績のあった藤原氏は、11年ごろに同高へ講師としてやってきた。
 藤原氏は採用されてまもなく、教職員組合の副委員長に就任。「歯に衣着せず、嫌われ役も厭わない」(同高関係者)性格から、学校側とボーナスの額や、労使協定について侃々諤々とやり合ったという。
 それを受けた種市氏らは、かねて考えていた学校のガバナンス強化に、藤原氏がうってつけの人材であるとして〝スカウト〟した。
 また藤原氏は北海道大学法学部を出て司法試験に挑戦していたことがあるという。法律に明るいことから、室長とともに法務も担当。不祥事の調査を主導し、処分を下す際にも矢面に立った。
 たとえば、現在の同高教職員組合は「非常勤講師なども含めた、従業員の過半数を占める組合ではない」として学校側は交渉を拒否しているのだが、これも藤原氏の主導とされる。組合側は当然猛反発し、両者の溝は深まるばかりだ。
 ある古株教員は「ある事案について、まだろくに調査もせず、弁明も聞いてもらっていない段階で藤原氏から『覚悟してください』と脅された。事前にターゲットを決めて裏付け調査をしているかのように、1つ問題があると、それだけでなく後付けで細かい罪状を探してくる」と憤る。
 藤原氏自身は「組合活動の中で、長年この学校の教員の間で培われてきた体質に不満があった。この学校はコンプライアンス上許されないような行為がこれまで見過ごされてきたが、今はもう許されない」と断じる。
 前出の民事訴訟についても「判決で明らかになるのは、提出された証拠に対する事実認定で、訴訟の勝ち負けは正義か悪ではない。その立場によって、正義と悪は変わる」と藤原氏は嘯く。
 その上で「訴訟に負ければ法に従って対応するが、懲戒を受けた教員を再び教壇に立たせることは決してない」と強調する。
 ここまで徹底した強硬姿勢を見せるのはなぜか。
 ある私学経営者は、15年に大谷中で発覚したいじめに遠因があると推測する。
 15年度に中学入学直後から、半年間にわたって複数のクラスメートからいじめを受け、1人の男子生徒が退学したという事件があった。一部マスコミの報道によって表沙汰になり、同学園によれば昨年春に和解したという。
「私学の教員は公立と違って基本的に転勤がない。その分、じっくり生徒と向き合える教員が多いので、いじめなどの問題が起きにくいと思っている父母が多い。1人でも多くの生徒を獲得するため、私学にとっては学校の評判が何より大事。定員割れで経営的に厳しい中で、いじめが発覚したことは、学校側の危機感を煽ったのではないか」(前出私学経営者)
 労使対立が3年にわたって続く中、別の影響も出てきた。懲戒の有無に関係なく退職した教員が10人以上もいるのだ。
 退職した教員は「学校側も教員も、どちらも生徒のほうを向いていない。組合も私に対して『学校側のスパイだろう』と疑う有様。若手や中堅の教員は辟易している」と明かす。
 ただ学校側は「改革の途上で、退職者が増えるのは民間企業でもよくあることだ」と意に介していない。
 前出の古株教員は「われわれにしても、学校改革自体に反対の教員は少ない。だが今の学校側のやり方はあまりに性急過ぎる。A氏はよく『社会通念上許されない』と言うが、何かの処分をするにも、労働法制や社内規定に則るのが当たり前だ。藤原氏のやり方はそれを逸脱していると思う。今のやり方では生徒、学校、教員の誰もが得をしない」と肩を落とす。

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