谷澤 廣【一般財団法人 北海道食品開発流通地興 代表理事】

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「北海道の食輸出を一流にして生産者を支える」

道内農畜産品輸出におけるフロントランナーが函館にいる。中国・香港や東南アジアへの輸出ルートを開拓。現地パートナーと連携し、農畜産振興のための販路拡大に取り組む。北海道食品開発流通地興の谷澤廣代表理事に聞いた。

厚沢部町産のカボチャを世界に

――北ガスの函館支社長から、2007年に戦後初めて民間出身者として函館市副市長に就任しました。

谷澤 : 副市長時代に「フード特区」構想が持ち上がりました。当時の西尾正範市長は、私に任せると言ってくださり、高橋はるみ知事や近藤龍夫道経連会長たちと一緒に、中央に陳情に行っていました。北海道の食の優位性を強く感じていました。

――副市長を退いで約1年後の12年に、函館市内で財団法人を設立しました。

谷澤 : 北ガス時代は公共料金、副市長の4年間は税金で生活をさせていただいていました。何かお世話になった北海道に貢献したいと考え、食のブランド化に取り組みたいと思うようになりました。

――財団の活動を教えてください。

谷澤 : 生産という視点からみれば、北海道のブランドは一流ですが、輸出の分野は二流と言えます。輸出のしっかりとした仕組みがないため、輸出したくても困っている中小企業や生産者の方々は少なくありません。
継続的な輸出に取り組んでいくには、調整役といいますか、接着剤が必要になります。
当財団は、中国・香港を中心とする輸出事業の地域商社です。川上から川下までトータルサポートをさせていただきながら、パートナー企業や生産者とともに新しい販路と商流をつくってきました。
13年に香港SOGOでプロモーションイベントを開催しました。きのとやの「チーズタルト」を出展し、大ブレークしました。同じ年には、タイ・バンコクの北海道アンテナショップも創設しています。
次に取り組んだのが海外への鮮魚の輸出です。消費者はおいしくて、安全、安心な商品を求めています。しかも魚は健康にいい。北海道はブランド力があると感じていましたが、中国にはほとんど輸出されていませんでした。
鮮魚を輸出するためには、衛生証明の発行が必要です。3日間かかるのを、厚労省とわたりあって、通信でできるようにしました。申請を簡略化させたことにより、日本の鮮魚輸出のハードルが格段に下がりました。
とくにキンキとハッカクが人気で、チルドで空輸していました。
また、中国へのアイスクリーム・ソフトクリームの輸出も、当財団が初めて実現させました。さまざまな規制に一つひとつ風穴を開けて、ここまでやってきました。

――厚沢部町のカボチャを東南アジアに輸出していますね。

谷澤 : 厚沢部町産のカボチャの輸出は19年から本格スタートしています。道産カボチャの国内出荷は毎年、9月から冬至で終わります。1月から3月までの冬場はメキシコやニュージーランド産の輸入物が市場に出回ります。
温度や湿度を管理し、貯蔵施設を整備すれば販売期間を長期化できるのでは、と考えました。農水省とともに町内の廃校になった学校を活用し、貯蔵システムの実証実験を行いました。
あわせて、海外市場では日本と異なり、小型のカボチャを好む傾向があります。海外向けに9月から半年くらいかけて、マレーシア、シンガポール、香港、台湾に輸出しています。
また、通年出荷体制を構築するため、規格外品でカボチャをペースト化。それを活用したお菓子などを輸出していきたいと思っています。
これらの事業を担っているのが農産物生産組合「あっさぶ農匠」(11戸)です。同組合のカボチャの作付け面積が年々拡大しています。当財団がGFPグローバル産地の認証や輸出先の現地パートナーとの連携などについて、サポートさせてもらっています。

――ここ数年、香港への食肉やその加工品の輸出に力を入れているそうですね。

谷澤 : 北海道の牛肉、豚肉、鶏肉の都道府県別産出額は、それぞれ2位、3位、5位です。畜産王国にもかかわらず、輸出シェアはほとんど実績がありませんでした。
畜産農家の経営環境は厳しさを増しています。飼料代が高騰し、食肉の国内市場は横ばいです。農業、畜産振興は継承していけるような形をどうつくっていくのかが大切です。畜産の価格を安定させるために海外の力を借りることで、次への希望が開けます。

輸出で最終消費者の心をつかむ大切さ

――国も食肉の輸出促進を打ち出していますが、伸び悩んでるのが現実です。

谷澤 : たとえば、現地のホテルを借りて、いろいろなバイヤーに集まってもらい、試食会を開催したりしますよね。日本の食肉の品質のよさは伝わりますが、「プロモーションをやりました。おいしかったね」というだけで終わるケースが見受けられます。たとえ単品、小ロットの輸出につながっても長続きしないでしょう。

――一過性で終わらないためには、どうすればいいのでしょうか。

谷澤 : 現在、当財団は輸出ルートを開拓し、香港のパートナー企業と提携して、食肉の取引をスタートさせています。このパートナー先にはスーパー最大手で、店舗数は400店を超えていて顧客もおります。
輸出を推進するためには大きな受け皿を持つ必要があります。そこにどんどん商品を提供していくのです。スーパーは欠品とならないように、継続した仕入れが求められます。
よくマーケティングで「BtoB」と言いますよね。パートナー企業は「BtoB、C」という考え方です。最終消費者の心もつかまなければいけないという強い思いを持っており、われわれも共感しています。きちんとしたプロモーションを企業のためだけではなく、お客様のためにやっていかなければなりません。
富裕層から中間上位、中間層と商品認知度が広がっていきます。現地のニーズに合わせた物流の供給体制を構築するとともに、販売網を活かして消費者に道産のお肉の良さを根付かせていきます。
食肉とあわせて、国内大手食肉会社のハムやソーセージといった畜産加工品も香港に輸出しています。当社がその企業のほとんどの輸出の仲介を引き受けています。
そもそも国際的にはチルド輸送がありません。冷凍か常温が主流です。全国の畜産加工品を新千歳空港に集めて週1回、香港に輸出しています。当財団の鮮魚や乳製品の輸出で培った経験を生かして、徹底した温度管理を実現しています。
香港のパートナーは、輸出した畜産品を直接販売する売場も多数設置していただいています。昨年度は4億円超えの売り上げを見込んでおり、今年度は10億円前後となる予定です。

――今後の取り組みを教えてください。

谷澤 : いま生乳廃棄が問題になっています。道産チーズを香港に輸出できるのでは、と考えています。香港はイギリス文化でチーズがとても売れています。しかし、日本の商品はほとんどスーパーの店頭に並んでいません。食文化が根付くには時間がかかりますが、ブランド化していきたいです。
現在、香港のカイタック空港の跡地で一大再開発が進められてます。5万人収容の多目的競技場が整備され、ホテルの総客室数は6800。事務所棟には10万人が就労でき、14万人分の住居も整備されます。そこに建つ香港SOGOビルの地下一階に200平方㍍の売り場を設けることになりました。当財団が食肉や加工品、総菜などを輸出販売する予定になっています。

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(たにさわ・ひろし)1949年函館市出身。67年北海道ガス入社。2003年函館支社長に就任。07年から4年間、函館市副市長を務めた。

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