池川 和人【北海道中小企業家同友会 代表理事】

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垣根がとれ、道内中小企業は道外で通用する時代

中小・小規模事業者が多い北海道では、支援する組織の活動も活発だ。人材不足や物価高が顕著な経済環境は中小企業にとっては死活問題。こうした状況に北海道中小企業家同友会はどう会員を支えているのか。代表理事に聞いた。

賃上げ問題など経営者の悩みの支援も

――北海道中小企業家同友会の説明をお願いします。

池川 : 当会は1969年設立で、全道10支部に分かれています。会員数は現在、約5700名です。
中小企業家同友会は全都道府県にあり、全国では4万7000名の会員数になります。各地域の会員数では北海道組織がダントツです。歴史的背景、市場規模などもありますが、当会の先輩たちが尽力してきた結果でもあります。
北海道の同友会は代表理事3人体制となっており、そのうちの1人が私ということになります。
当会の理念に3つの目的があります。①良い会社をつくろう②良い経営者になろう③良い経営環境をつくろう――です。
会員数も多いですから、北海道組織の活動は活発です。別の団体の方などからは「同友会って、一生懸命、みなで勉強している会ですよね」と言っていただきますね。

――どのような企業支援を。

池川 : もともと同友会では企業づくり、地域づくりに力点を置いた取り組みを行っています。企業づくりに関しては、会員に向けて、まず「経営方針を成文化すること」を勧めています。小規模な企業だと経営方針をつくらないという社長もいるんですよね。
でも、きちんと経営方針を成文化して、社内に浸透させ、成果を出し、検証・評価する。これをやらなかったら、経営はもちろん、採用活動にも影響がでます。とくに新卒採用ですね。今の学生たちは就職活動する際、企業側の経営方針や理念を積極的に聞いてきますからね。
これに合わせて、会員には、きちんと10カ年計画のような長期ビジョンを設定することも勧めています。このほか、「自社と地域を担う人材の採用」や「育成のための社員教育」などを支援しています。
当会としては、全国の同友会の協議会である中小企業家同友会全国協議会の前会長が言った「発展性のない会社に誰が来る(残る)かい!」という言葉が取り組みを象徴しています。そして、経営者の矜持として「社員を最も信頼できるパートナーと考え、共育を重視する」ことを掲げています。
同友会では教育ではなく、共育という言葉を使っています。社員教育は、単に教えて育てるだけではありません。教える側の上司、経営者自らが勉強して、成長していかなくてはならない。そういうことにも力点を置いているためです。 
社員教育については、各支部ごとに積極的に取り組んでいます。会員は中小企業ですから、新入社員は1人か2人というところもあります。ですから、同友会では入社式はもちろん、内定者のフォローアップ研修や新入社員研修、入社1年目・2年目・3年目研修などの合同開催を行っています。企業トップ向けには、経営者大学なども実施しています。

――会員企業の現状、経営者の実情などは。

池川 : 当会では四半期に1回、景気動向調査をしていますが、企業に目を向けると、やはり人材不足や物価高の影響、事業承継問題など、課題は多い。北海道でみると、市場性も衰えてきています。
今春、従業員の賃上げが話題を集めました。賃上げの流れは大手だけではなく、中小企業にも波及しました。一方で、業績にかかわらず、賃上げに踏み切る企業もありました。
例えば、新卒の初任給を上げる場合、社員のベースアップにも手をつけなくてはなりません。企業側には大きな負担になります。今後、経常利益が落ち込む中小企業が増えるのではないかと懸念しています。
同友会では、こうした際の経営者の悩みについても対応しています。先ほどの取り組みの部分と少し重なる部分もありますが、「人材確保・定着」「経営課題をしっかりと把握した企業体質強化」「事業承継に向けた課題の整理」などのサポートをしています。

若手経営者の挑戦を許容できる環境づくり

――会員企業に関して、何か明るい話題はありますか。

池川 : 民間・行政レベルなど、今、いろいろな枠組みでスタートアップ企業への支援が広がっていると思います。同友会としても、そうしたお手伝いを行っています。当会には各支部に若い経営者の組織もあります。
やはり若い人たちに頑張ってもらわないと、経済はより活性化していきません。それに若い人たちの発想力はすごいですよね。時代とともにスピード感もより速くなっています。 
ただ、そういう若い人たちにはトライ&エラーをしてもらいたい。失敗を自分で経験することで、やっぱり勉強するんですよ。机上の空論だけでやっていても、それは長く続かないです。ですから、同友会としては、トライ&エラーを許容できる体制作りに寄与していきたいと考えています。
話は少し変わりますが、先日、とあるニュース記事が目に留まりました。アメリカでの事案なんですけど、多くの企業の社内ツイッターを分析し、経営との関係を調べたというものでした。業績が伸びている5%と、反対に伸びていない5%の企業のツイッターを比べると、前者の企業は自由に参加でき闊達なやりとりがなされていた。後者は経営者のトップダウンのものが多かったそうです。  
同友会でも、もともと会員企業に向けて前者のような考えを浸透させていきたいと考えています。SNSなどは今、どの企業も活用していますよね。SNSなどの普及によって、いろいろな垣根がなくなってきていると感じています。北海道ではとくに、地理的、土地的なものでしょうか。そうした垣根がなくなってきていることで、世界の縮図が日本、日本の縮図が北海道と、捉えることがよりできるようになってきていると感じています。
ひと昔前、「試される大地」というキャッチコピーが北海道についていましたけど、道内企業でみると、今はもう全国的に通用する時代になっていると思います。
でうまくいくものは、本州、海外、ようは道外に出てもやれますよ。北海道で事業モデルを確立してから本州、世界に進出できるはずです。当会にも大きく成功した先行事例もありますから。

――中小企業の経営者にエールをお願いします。

池川 : 同友会には「孤独な経営者をなくす」というキャッチコピーがあります。よく言われますが、経営者は孤独なんですよ。経営の悩みや課題を一人で抱えてしまっています。小規模企業の経営者であれば、すべてトップダウンで経営を行っているケースもあり、なおさらのことかもしれません。 
同友会には同じ悩みを持つ経営者がたくさんいます。そうした悩みをぶつけ合ってもらいたいと思っています。過去の事例も豊富にありますから、その課題を乗り越えられる場、そして経営者同士が切磋琢磨できる場であり、明日の力をもらえる会になっています。

――引き続き、中小企業・北海道にどう貢献していきますか。

池川 : 同友会はもともと、中小企業によって、設立された小規模な組織でした。そういうところが始まりですから、地域企業が元気にならないと、当然、地域も元気にならない。
そこにはたくさんの人がかかわっています。ですから、地域の元気が北海道全体の元気につながり、未来にもつながる。そこに貢献できる同友会を目指していきます。

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(いけがわ・かずひと)食品関係を中心とした包装資材の総合企画販売「ティーピーパック」(札幌市)の社長を務める。2021年北海道中小企業家同友会の代表理事に就任。

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