滝沢仁 帯広市農政部 ばんえい振興室長

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ばんえい競馬を通じて十勝・帯広の魅力を発信

「ばんえい競馬」は世界で唯一、帯広市で開催されている。2021年度の馬券売上額は過去最高を記録。さまざまなイベントを企画し、競馬場来場者のアップにも取り組む。滝沢仁ばんえい振興室長に地域経済との関係性などを聞いた。

人気アニメとの共同イベントが大盛況

――2021年度のばんえい競馬の馬券発売実績は517億9500万円を記録し、過去最高でした。廃止が議論されたこともありましたが、見事にV字回復を成し遂げました。ばんえい競馬の売上の好調さをどう受け止めていますか。

滝沢 : ばんえい競馬は2009年から、帯広市主催による単独開催になりました。2000年代半ばが、一番売上が低くて、苦しい時期でした。その後も試行錯誤を繰り返しながら、売上アップの取り組みを行う中で、馬券売上全体に占めるインターネットによる発売額の割合が、どんどん増えていきました。
 さらに、20年からのコロナ禍で発売額が大幅に伸びました。こうした巣ごもり需要と関連するような動きは、ばんえい競馬だけではなく、ほかの全国各地の地方競馬も同様です。
 ちなみに21年度の全国の地方競馬の総発売額は9933億円となり、好調であった1991年度を上回る額となっています。
 ばんえい競馬の売上については、道内外のファンの方々に支えられているのが現状です。

――ばんえい競馬はサラブレッドの平地競馬と異なり、世界で唯一、開催されています。

滝沢 : ばんえい競馬はもともとお祭りばん馬が始まりで、北海道の開拓時代の歴史をそのまま受け継いでいます。ある意味、そうした歴史を今日に伝える貴重な文化遺産でもあります。
 レースは直線コースで行われます。体重1㌧を超える馬たちが重りをのせた鉄ソリを引いて、コース途中に設けられた2つの坂を越えながらゴールを目指します。実際にレースを間近で見ると、馬の大きさと迫力に圧倒される方も少なくありません。そうした人馬一体の姿を通じて、応援していただけると思っています。
 これまで全国で、ばんえい競馬の存在が知られていないという面もありました。インターネットの映像を通じて、レースの模様をお伝えしていく中で、知名度も上がっていると思っています。

――現在、帯広競馬場への入場者のアップにも力を入れているそうですね。9月にはアニメやゲームとコラボした共同イベントが大盛況だったとうかがっています。

滝沢 : コロナ感染拡大に伴う行動制限も緩和されたので、集客が見込めるイベントを実施できるようになりました。
 9月3日には、アニメ「邪神ちゃんドロップキックX」のイベントを実施しました。帯広市では、ふるさと納税を活用して、コラボアニメの制作費(目標3000万円)を募りました。アニメを通じて地域を紹介することを目的にしています。
 同アニメの帯広編が実現することになり、今年8月にテレビで放送されました。
 アニメの中では、キャラクターが市内の有名菓子店、帯廣神社などのスポットをめぐり、邪神ちゃんがばん馬の姿になって登場しています。
 イベントには、アニメに出演する声優さんによるトークショーを実施したり、クイズラリーなども行いました。道内外の邪神ちゃんファンが帯広競馬場に集まりました。
 9月17日から19日の3日間では、「ウマ娘プリティーダービー」のイベントを開催しました。
「ウマ娘」は歴代の名馬を擬人化させ、そのキャラクターを育成するゲームで、アニメも放送されています。

――いまや大ブームになっていますね。

滝沢 : 「ウマ娘」は平地競馬のイメージが強いと思いますが、昨年くらいから「ウマ娘」のゲームを開発した「Cygames」(本社・東京都)にイベント企画のお話をさせていただいていました。
 この3日間で約1万5000人が競馬場に詰めかけ、19日には開門前に1000人を超える行列ができたほどです。
 最終日には「ウマ娘」の声優さん2人とキャスターの草野仁さんによるトークショーを行い、大変盛り上がりました。
 この日だけで6300人が競馬場を訪れました。また、コラボイベントを記念した限定グッズも販売しました。
 こうしたイベントを通じて、ばんえい競馬に親しみをもっていただければありがたいです。

地域住民にもより親しまれる競馬場に

――市は帯広畜産大学に、十勝全体へのばんえい競馬開催に伴う経済波及効果を委託しました。20年度は約61億円と算出されています。ばんえい競馬を、どのように地域活性化に結びつけていきたいですか。

滝沢 : まずは、ばんえい競馬を公正に開催して、収益を上げることに全力を尽くすということです。公営競技ですから、収益がなければ継続はできません。
 イベントを開催した9月18日は、市内のホテルの予約をとるのが大変だったと聞いています。
ばんえい競馬のイベント参加がきっかけで十勝・帯広を訪れ、管内のスポットや飲食店で消費をしていただけると、地域経済への貢献につながると思っています。
 現在の場所で競馬を実施できるのは、周辺住民の方々のご協力、ご理解があってこそです。地域の方々により親しまれる競馬場として、気兼ねなく訪れることができるようなイベントも増やしていきたいです。
 10月2日には、3年ぶりに帯広商工会議所青年部が主催する「ばん馬まつり」が開かれました。

――180㌔の鉄ソリを引く「とかち人間ばんばレース」が名物イベントです。

滝沢 : そのほか、「こども縁日」や「かるた大会」などさまざまな企画を実施していただき、大変なにぎわいを見せて、この日の来場者は7000人を超えて、本年度最多となりました。
 観光客の方もいらっしゃいますが、家族連れで地元の方々も多く来場いただけたと考えています。

――ばんえい競馬場には、さまざなスペースが設けられています。競馬以外でも楽しむことができます。

滝沢 : 競馬場入口にはショップ&グルメスポットの「とかちむら」があります。
 地元で採れた旬の野菜や特産品などを販売する「産直市場」や「カフェ」などがあります。「ふれあい動物園」では、引退した競走馬やポニーやうさぎとふれあうことができ、子どもたちに人気です。ばんえい競馬を通じて、十勝・帯広の魅力を発信していきたいです。

――ばんえい競馬は関連産業を含めて、雇用という側面でも地域に貢献しているのでは。

滝沢 : ばんえい競馬開催にあたり、騎手、調教師、厩務員の方々だけでも約200人。そのほか、競馬開催業務に携わる方々も200人以上もいらっしゃいます。
 ばん馬の生産は十勝、釧路地域が多く、関連産業を含めると多くの雇用を創出していると思っています。

――最後にばんえい競馬の未来をどのように描いていますか。

滝沢 : コロナ禍ということもあり、馬券の売上が伸びているのが現状です。
 一過性に終わらせることなく、継続して応援していただけるような競馬の開催に努めていかなければなりません。そういう意味で、競馬場内のイベントだけでななく、インターネット上でのイベントの強化も必要になってきます。
 今後もばんえい競馬の利用者が増えるような取り組みに力を入れていきます。

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たきざわ・ひとし
1963年、釧路市出身、帯広市育ち。83年に帯広市役所に入り、2020年4月から現職。
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ばんえい競馬のレースの様子

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