田中紀雄 3eee社長

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道内初。多世代複合施設「百年の森 函館」を開設

 全国で介護・障がい福祉事業を手がける「3eee」(本社・札幌市)が、11月に函館市に多世代複合施設「百年の森 函館」を開設する。労働人口の減少などで介護・福祉業界が大きな転換期を迎える中、今後の施設運営の在り方や事業の展望について聞いた。

新たな社会参加の場となる施設を開設

――労働人口の減少を受け、介護・福祉施設の大規模化・協働化を国が推進しています。

田中 : 当社が身を置く介護・福祉業界は大きな転換期を迎えようとしています。今後、厚生労働省は介護分野の人材確保がより困難になるとの見通しを示しており、各事業者の生産性向上を多角的に推し進めています。
 経営の安定化や効率化につながる大規模化・協働化を推進していくという流れが大きくなりつつある中で、当社もこうした潮流を見据えて、まず帯広市で高齢者と障がい児童の共生型デイサービス事業所をオープンしました。そこでさまざまなトライアルを行いながらノウハウを蓄積し、そして今年11月、函館市に「百年の森 函館」を開設する運びとなりました。

――施設の特徴は。

田中 : 現在、当社が函館市で展開している通所介護・児童発達支援・居宅介護支援の事業所に、新しく就労継続支援B型の事業所を加えた4業態を1カ所に集約した複合施設です。当社がこれまで培ったノウハウを集約した形となります。
 施設内には、挽きたてのコーヒーや軽食を楽しめるカフェスペースのほか、諸事情で買い物に行くことが難しい〝買い物難民〟の方が、通所がてら気軽に買い物を楽しめる商店スペースも設けています。道内初となるコンセプトの施設として、新たな試みにも果敢に挑戦していくつもりです。

――利用者にとってはどのような場所になるのでしょうか。

田中 : 高齢者と障がい児・者など、利用者および世代間の交流を積極的に推進していく施設となっています。核家族化の影響もあり、異世代との交流が乏しくなりつつある今、子どもたちが高齢者や他の障がい者との交流を深めることは、子どもの成長・発達の側面から見ても欠かせない経験だと考えています。また、高齢者にとっても孫のような存在である児童とふれ合い、交流を持つことで自らの役割や生きがいを見出すことを期待しています。

――施設が1つの社会機能を持つというイメージですね。

田中 : その通りです。施設内には高齢者や障がい者の方々が働ける場所も設け、生活意欲の向上を図っていきます。これは今後、割合増が懸念される介護保険の自己負担分を軽減し、利用者の自立を支援する画期的なサービスといえます。
 また、高齢者が作った雑貨を施設内の商店で販売したり、障がい者がカフェで働いたり、ヒトやモノの流れを内部で循環させるエコシステムを構築するという狙いもあります。

――地域との共生も掲げていますね。

田中 : はい、「百年の森」では世代間の交流・協働によって生まれるこれまでにない社会参加の場を創出し、利用者の心の豊かさや生きがいを共に創っていく新たな地域共生社会モデルの実現を目指しています。
 地元の農家や生産者さんと提携したコラボレーション企画も考えています。一施設のみの閉鎖的な空間とするのではなく、ボーダレスなコミュニティーの場として地域との交流を積極的に図ってまいります。

――施設の立地は。

田中 : 住所は大川町15―20で、函館の中心部といえる五稜郭に近いエリアにあり、利便性も高いです。面積は約200坪。落ち着いた居心地の良いカフェのような空間で、ゆったりとくつろぐことができます。また、車椅子対応のリフト付き送迎車もありますので、体の自由が利かない方でも安心して通所いただけます。

――事前見学は可能ですか。

田中 : もちろんです。11月12 日(土)には、一般の方向けに内覧会を開催する予定です。当日は施設内を自由に見学できるほか、カフェスペースでの実演も行い、来場者の方にはささやかなプレゼントも用意しておりますので、興味のある方は是非見学にお越しください。現在、関係者の皆様には先行して施設の開設を順次ご案内している最中ですが、面白い試みということで大きな反響をいただいております。

――大きな事業投資になりそうですね。

田中 : 新型コロナウイルスの影響もあって、当社も非常に厳しい戦いを強いられていますが、守ってばかりいては企業は衰退の一途をたどるのみになってしまいます。守りながらも攻めるスタイルを貫いていきます。
 こうした状況下で今回開設する「百年の森」は今後、当社の事業展開の大きな核となっていくものと確信しています。

SNSと海外人材を活用した採用戦略

――人口減少と高齢化が進む函館エリアでは、現場スタッフの確保が難しいのでは。

田中 : ありがたいことに介護・福祉業界で働く方には、当社の存在を知っていただけているようで、今回の「百年の森」の求人募集に際しても、既に100件を超える応募をいただいております。しっかりとスタッフを選考できる状況下で準備を進めています。

――採用面での戦略は。

田中 : 当社では、スタッフがSNSやブログを通じて情報を絶えず発信することで、会社案内のパンフレットやホームページでは伝わりづらい「社風」「職場の雰囲気」を認知していただけるよう努めており、こうした取り組みが採用好調の一因と捉えています。スタッフは自分たちの会社や仕事に誇りを持って、積極的に発信していこうと主体的に取り組んでくれています。その志や熱意に共鳴する方が一人でも増え、一緒に働いていただけたら嬉しいです。
 また、国内のみでなく技能実習生として海外人材の登用も積極的に行っています。異国の地で働く海外人材はとても真摯に仕事に向き合っていますし、その熱量もケタ違いです。同じ現場で働く日本人スタッフにも良い刺激を与えています。スタッフ間で切磋琢磨し、提供するサービスの質の向上にもつながっています。

多店舗運営を支援するクラウドAIシステム

――今後の事業展開は。

田中 : まずは「百年の森」を早期に軌道に乗せることですね。同様の複合施設を札幌市内でも計画し、水面下で準備を進めているところです。会社としてこの大規模多機能モデルの推進に注力していく予定です。
 また、当社はかねてからDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進してきました。現場の生産性向上やFC加盟企業様の利便性を高めるため、クラウドAIを駆使したシステム開発に取り組み、今年4月には「Dr.ZNOO」を完成させました。
「Dr.ZNOO」はあくまでもFC加盟企業様向けですが、このシステムを活用することでさまざまな業種・業態への応用が可能となります。そして、今後はSaaS(Software as a Service)モデルの構築と展開を進めていく方針です。とはいえ、単にシステムや仕組みを売るのではなく、業種・業態の特性や企業の実情を加味したオーダーメード型の支援サービスを追求していくことになります。

――具体的には。

田中 : 「Dr.ZNOO」には、AIによる24時間対応の自動応答機能、各種資料・書式のダウンロード機能、発注機能やeラーニングシステムなどを搭載し、これまでスーパーバイザーが担っていた業務をAI化しました。今後、ますます人材確保が困難を極める中、これは多店舗展開を進める企業の課題を解決できる画期的なシステムです。今後はこのシステムを活用して、介護・福祉事業はもちろんのこと、北海道の発展にも貢献していきたいと思います。

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たなか・のりお
1974年岩見沢市生まれ。札幌学院大学卒。2010年ヒューマンリンクを設立し、19年に3eeeに社名を変更。介護、障がい福祉における総合在宅ケアサービスを展開。日本デイサービス協会の副理事長も務める。

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