札幌除雪ヒストリー「今年度の雪は災害級だ」

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渋滞が起きている札幌市内の幹線道路(中央区大通西15付近)

「道路脇の雪山が高い」「車が交差ができないほど道が狭い」。札幌市民の大半が、今シーズンの雪に嫌気がさした。札幌市長も「災害級だ」と表現するほど、除雪は追いつかなかった。札幌の除雪方法の現状を〝深掘り〟した。

一晩で1000台、3000人が稼働

1月中旬以降、札幌市内では何度もドカ雪が降った。札幌管区気象台によると、1月の降雪量は例年の1・3倍の182㌢に達した。2月になっても雪の猛威は治まらない。同6日には1999年の統計開始以降、最多となる24時間で60㌢を記録した。
 市内は道路脇の雪山が高くて、大きい。雪山によって、幹線道路は車線が減り大渋滞が発生。生活道路は車が交差できないほどだった。しかも、日中は気温が下がらなかったことなどから、デコボコ道も目立った。
 札幌の除雪についてさかのぼると、市が機械除雪を行うようになったのは戦後すぐ(昭和20年代)のこと。市が除雪に関する5カ年計画を始めて策定したのは67年(昭和42年)。現幹線道路、生活道路にきちんと除雪が入るようになったのは78年(昭和53年)だという。
 市では「冬のみちづくりプラン」という冊子を作成するなど、除雪に関する啓発活動にも取り組んでいる。同冊子は昭和60年代に策定され、除雪水準をまとめた「雪さっぽろ21計画」がもとになっている。
「札幌市に限ったことではないが、降雪量と苦情は比例する」(札幌市議)といわれる。市の土木センターに寄せられる苦情は例年、平均8000件。今年度は1月20日時点ですでに2万2000件となっている。
 取材中には「記録的なドカ雪が一番の理由だが、市が除雪方法を変えたから作業が滞っているのではないか」との市民の声を何度も聞いた。
 しかし、後者の理由は正しいとは言えない。
「ドカ雪で除雪作業が進まなくなってから、一部メディアで新しい方法が取り上げられた。そのため、新方式を導入したことで、作業が滞っているという印象を与えてしまった」と札幌市幹部や除雪業者幹部は口をそろえる。
 現在の市の除雪状況を説明する。
 市の除雪予算は燃料費、人件費、機械経費などの高騰から段階的に上昇している。近年は200億円強で推移。2021年度の当初予算は214億円だ。190万都市・札幌の除雪予算は単純計算では、市民1人あたり1万円強を負担していることになる。
 大雪が降ると、「一晩で、ダンプカー・除雪機1000台、従事者3000人が稼働する」(除雪業関係者)といわれている。道路1㌔にかかる除雪費は320万円とされる。
 除雪作業は基本的に深夜から早朝にかけて行う。範囲は市内約5400㌔。内訳は幹線道路2100㌔、生活道路3300㌔だ。幹線道路には明確な基準はなく、簡単に説明すると、2車線以上のもの。生活道路は住宅街などを通るものだ。
 除排雪作業はかつて、市が直接、区ごとに行っていたが、現在は市と地域、除排雪業者が連携するマルチゾーン除雪を導入している。
 除排雪作業の区域を連合町内会などの地区単位に細分化し、除雪センターを設置。市から委託された複数の業者が、企業体を形成し、各地区を担当して24時間待機している。
 マルチ制度は92年から試行され、95年から市内全域で導入。若干の制度変更があり、2000年から現在のような仕組みになった。
 生活道路の除雪方法については上の図の通り。除雪車の出動基準は降雪10㌢以上が目安。路面の積雪を両脇に寄せながら、道路を往復する。圧雪路面を削る整正作業は、通行に著しく支障をきたすときに実施する。
 幹線道路も出動基準は同じだ。幹線道路の排雪は市側で判断しているが、生活道路は地域の要望を受ける形で実施している。それが1992年から始まったパートナーシップ排雪だ。
 要望は町内会単位でも複数の地域住民の合意形成でも可能。除雪業者が1月末から約1カ月かけて、たくさんの量の排雪をおこなう。
 費用は道路幅が10㍍以上であれば、市が全額負担し、10㍍未満の場合は市と地域住民側の折半となる。地域住民側の今年度の支払額は市内一律で、1㌔あたり51万6400円。燃料費、人件費などの高騰で過去最高を記録している。

除雪の新方法は生活道路のまだ5%

 冒頭で話題にあげた生活道路の新たな除雪方法は、19年度から試行されている(図参照)が、生活道路のわずか5%にあたる185㌔で試行されているに過ぎない。
 では、どのような方法なのか。まず出動基準を20㌢以上の大雪時に変更。かき分け除雪のほか、路面の積雪を専用の装置で踏み固める作業を導入した。さらに道の往復をやめ、道路中央を一方向に進行。整正作業も、通行に支障が出る前に計画的に圧雪路面を削ることにした。パートナーシップ排雪に代え、市の負担で最低限の雪を運び出す簡易排雪に切り替えた。
 導入理由は「『寄せられた雪のせいで、家から出られない』『寄せられた雪の処理が大変だ』という市民の声になります。こうした声は高齢化社会において、増えていくと考えています」(市の除雪担当者)
 除雪業者側にも利点があるという。従事者の高齢化と人手不足は今後、さらに深刻化していくとみられる。「新方式は端的に説明すると、出動数が減り、整正作業が増えることになります。整正作業は業者が計画的に実施できるため、作業の効率化と省力化を図ることができます」(前出担当者)
 一方で、デメリットがある。住宅の出入り口前に雪を残さないようにするため、道路脇の雪山が大きくなってしまうという。
「雪山が高くなるのは想定内でしたが、今年度はそのエリアだけが突出しているわけではありません。従来エリアでも同様に雪山は高い。新たな方法を市全域に広げていくのかは、まだわかりません。分析はこれからです」(前出担当者)
 1月のドカ雪を受け、秋元克広市長は同20日の臨時記者会見で「今回の雪は災害級」と語った。市内の除雪業者幹部は何人も「同感だ」と口をそろえる。
 一方で、「秋元市長が災害級と表現するなら、もっと対策を講じてもらいたい。除雪従事者は使命感を持って、夜中の勤務も当たり前の中、働いている。しかし、今回のようなドカ雪が連続したら、高齢化、人手不足という除雪業界の構造的な問題もあるが、〝フル〟で働いても除雪が追い付けないのが現状だ」(除雪業者社長)という声もある。
 市役所元幹部は「札幌では単純計算で1人あたり1万円強を負担しているが、これを倍の2万円にしたっていいだろう。それくらい、除雪は市民の生活に直結する問題。しかし、除雪予算の引き上げは市民の批判が高まるため簡単なことではない。また、予算を増やしても作業員がいないという根本的な問題は解決されない。市民、市役所、業者には、今回のドカ雪を契機に、除雪のあり方を見直すきっかけにしてもらいたい」と話す。

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