新谷聡 大和ハウス工業北海道支社長

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札幌もより高効率、高機能なまちづくりが必要

 札幌市内では、2030年を念頭に再開発が加速している。そうした事業に多く携わってきたのが、大和ハウス工業だ。まちづくりを考える上で、大切なことは何なのか。同社の新谷聡北海道支社長に聞いた。

近隣住民に受け入れられる再開発が大切

――大和ハウス工業はこれまで、札幌市内の各地域で再開発事業にかかわってきました。

新谷 : いま弊社が都心部や商業地域で再開発事業に携わっていますが、それは私が入社する前の先輩たちがしっかりと行政との関係を培ってきたからです。
 中央区内のJR苗穂駅周辺も、当社のグループ会社が数十年前からかかわり続け、ようやく事業化される運びになりました。
 おかげさまで、当社の住宅・マンションは、札幌で認知されているように感じています。ほかの同規模の地方都市よりも、札幌の当社内のポジショニングは上に位置づけられています。
 これまで旧市街、古い町並みを再生させるにあたり、地権者組合からご依頼をいただくケースもあります。また、弊社で開発できると考え、準備組合に参加するケースもありました。
 開発規模、年次に応じて、取り組み方は多種多様ですね。分譲マンションであれば、近隣の方々を含めて、受け入れられる案件でなければ、事業として完結することはできません。入居者さま目線を軸において、地域とどのように連動させるのかを、開発の軸にするようには心がけています。

――厚別区・新札幌の大規模再開発事業は、大きな話題を呼んでいます。進展状況はいかがでしょうか。

新谷 : 当社も一部かかわらせていただきました。再開発地域で手がけた分譲マンション部門はほぼ完売となりました。そのほか、ホテル、商業ゾーン、メディカルビルなども建設中です。
 およそ22年中には、ほぼすべての建物は完成するのではないでしょうか。次はサンピアザ周辺の再生が課題になってくると思います。長期的な目線で、行政、民間も交えながら議論が進んでいくと思います。

――JR札幌駅北口の再開発にも参画していますね。

新谷 : 地上48階、2階建て、高さ約172㍍の北海道最高峰の分譲マンション「ONE札幌ステーションタワー」(624戸)を販売しています。
 私は札幌生まれですが、学生時代の札幌の中心部と言えば大通地区でした。昨年、15年ぶりに故郷に戻ってきましたが、いまは人の流れが札幌駅周辺の方が多く、大通と入れ替わっています。
 ただ、大通公園周辺も名だたる本州資本の支店が軒を連ねています。再開発も予定されている区域もあり、まだまだ発展する可能性を秘めています。

――2030年度末には、北海道新幹線の札幌延伸が予定されています。札幌市内では、そこをめがけて再開発を加速させる動きもあります。

新谷 : 新幹線の札幌開業だけではなく、冬季オリンピック・パラリンピックも開催されるかもしれません。とはいえ、30年がゴールではないと感じていますし、そうすべきではないと思っています。
 札幌のような200万都市で、これだけ雪が降るのは、世界でも珍しいです。オリンピックを招致できればウインタースポーツの醸成につながります。
 オリ・パラを開催できるポテンシャルを、観光事業やスポーツの発展、普及に生かしていく必要があります。
 私は学生時代、アルペンスキーをやっていましたが、世界的にはノルディックスキーの人口が多いです。いわゆる歩くスキーです。
 近年、マラソン人口も増えて人気です。ノルディックスキーも冬場のマラソンのような形で、健康のためにきっちり定着させていけるかもしれません。
 札幌にもこんな美しいコースがあることを世界に伝えていく。雪の降らない国々に対するウインタースポーツ普及の可能性もあると感じています。
 新幹線効果という意味では、本州と札幌が陸でつながるというよりは、その先には旭川までの延伸を目指す動きが出てくるでしょう。
 そちらの方が、道内全域へのメリット、経済効果が大きいと思います。旭川をしっかりとしたハブに育てあげて、観光拠点にする。たとえば、美瑛や富良野方面は、人生観を変えるようなすばらしい景色が広がり、貴重な観光資源です。さらに利便性がよくなれば、道北地域にもさらに足を運んでもらえることも期待できます。

住まい方、暮らし方の変化をとらえる

――札幌の分譲マンションは今後、まだまだ増えていくのでしょうか。

新谷 : ここ数年、大通の西側エリアも、居住区間として注目されています。当社でも40戸クラスの分譲マンションを2、3棟計画しています。また、地方都市では旭川市内でタワーマンションの計画もあります。帯広などの都市にも可能性があるのではないでしょうか。

――これからのまちづくりに求められることは。

新谷 : 公共交通機関の発達と自動車の電化、または脱自動車の流れは、誰もとめられないと思います。札幌でも、清田区を中心に地下鉄延伸の議論もでてくるでしょう。
 この先、人口は間違いなく減少傾向をたどります。いままで郊外に末広がりの形で札幌のまちは発展してきました。
 今後は、規模的に合理的なまちなみに変えていく必要があります。つまり、もう少しコンパクト化、集約させていく方向に変わるのではないでしょうか。
 あわせて、環境問題への対応も急務です。当社も年間エネルギー消費量がゼロまたはマイナスになる「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)住宅」の普及に力を入れています。ますます、高効率、高機能な都市形成が進んでいきます。
 そうした時代を迎えたとき、人々の住まい方、暮らし方はどのように変化するのか。時代のニーズを敏感にとらえ、対処していかなければなりません。

――最後に札幌市内では住宅地を中心に土地の価格が高騰しています。再開発の足かせになるのでは、と指摘する向きもあります。こうした市内の不動産概況をどのように分析していますか。

新谷 : こうした地価高騰の流れは、全国的な傾向です。とはいえ札幌に関しては、価格が上昇しているというより、健全な状況に戻りつつあるという見方をしています。
 現在の札幌の宅地価格は坪40万円くらいでしょうか。ここ数年でずいぶんと上がったと思われるかもしれませんが、この価格は、仙台よりもまだ安いのです。
 北海道拓殖銀行の経営破綻後、毎年、土地の価格が下がっていきました。私も15年ほど前まで、こちらで営業をしていた時は、土地の購入打ち合わせの相手は清算人、管財人(RCC)が多かった印象です。
 いまは土地を売却する時も、地権者自らの意思が反映される状況になってきました。金融機関もしっかりとした土地の評価をしています。
 いま、バブル期に購入した土地の価格が倍になるケースも見受けられますが、自分の資産価値がアップすることは、マイナス要素ではありません。
 当社も開発する時、土地の購入が高くなっているので、苦労することもありますが、資本主義という観点からも、不動産市場が健全な状態に戻りつつあると感じています。
 一部で「土地バブルじゃないか」とおっしゃる方もいますが、当社マンションのお客さまは、ほとんどが道内在住者です。居住目的で、その後の資産売却益のためという流れにはなっていません。

――本日はお忙しいところありがとうございました。

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あらや・さとる
1967年札幌市北区生まれ、西区育ち。札幌大学卒業後、大和ハウス工業に入社。札幌・函館で15年ほど道内勤務を経て東北へ。18年、仙台支社副支社長兼建築事業部長を経て、21年4月、現職として着任。

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