〝無罪請負人〟 弘中惇一郎弁護士が「根拠のない申請だった」

弘中惇一郎氏
旭医大学長解任騒動を一刀両断
1年以上続いた旭川医科大学の騒動は、文部科学省に提出した学長解任申し出を大学側が取り下げ、吉田晃敏氏の辞任で決着した。しかし、もやもやとした印象を持つ人は少なくない。解任を阻止した有名弁護士に疑問をぶつけた。
病院長の解任劇が大きな契機に
旭医大での騒動は2020年暮れから始まった。当時、新型コロナのクラスターが市内の民間病院で発生。吉田晃敏学長(当時)が学内会議で、この病院を念頭に不適切な発言をした、と週刊文春が報じた。さらに病院長へのパワハラ発言疑惑や不正支出疑惑などを、各メディアが報じていく。
病院長がクビになると、学長解任を求める運動が学内で始まった。その後、学長選考会議が審議を行っていた最中の昨年6月、吉田氏が文科省に辞表を提出した。
国立大学法人の学長は学内手続きで選考され、任免権は国が持つ。そこで吉田氏は文科省に直接、辞表を提出した。
一方の学長選考会議は審議を進め、文科省に解任を申し出た。34の事案をもとに大学側は新学長の選考も進め、昨年11月には西川祐司氏が内定。吉田氏の辞任を文科省が3月に認めたのを受け、西川氏が学長に就いた。
ただ、すっきりしない結末ではある。大学側が解任申請を取り下げるという異例の展開だったため、34項目の申し立て項目について、国は判断をしていない。
さらに騒動が長期化して記憶が薄れたためか、ちまたに誤解も少なからず生じていた。例えば、吉田氏が自分に逆らった病院長を狙い、クビにして追い出したと思っている人がいる。
今回、吉田氏の代理人を務めた弘中惇一郎弁護士に、主な問題点や疑問を質問した。
弘中氏は法曹界で著名な人物。郵便不正事件では厚生労働省の幹部だった被告の弁護人を務め、無罪を勝ち取った。この事件では大阪地検特捜部の証拠捏造も暴いた。弘中氏は無罪請負人と呼ばれることも。以下、弘中氏へのインタビュー。
――病院長の解任理由について改めて説明をお願いします。
弘中 : 学内会議や話し合いを無断で録音・録画して了承を得ずに外部に、特にマスコミに漏えいしたということで解任に至った。
――病院長という重要なポストの解任に相当する理由ですか。
弘中 : どんな組織であっても内部の重要なことを話し合う会議、内輪の社外秘にかかわる会議を無断で録音して外に漏らせば、組織の存亡にかかわる問題になります。当然、解任事由にあたるでしょう。
間違って1回外部に流してしまったのならともかく、複数回にわたり、意図的にメディアに流したと判断されました。大変な責任が生じる問題です。
――当時、病院長解任劇で吉田さんの解任運動が盛り上がっていった印象です。
弘中 : それをきっかけにして病院長を擁護する人たちが結束し、反吉田の運動を作っていった。大きな契機になったことは間違いないと思います。
――誤解されている方がいますが、病院長解任を決めた役員会には、吉田さんは参加していません。
弘中 : ポイントは3つあります。まず役員会で議論が尽くされた結果として病院長解任になったこと。
次に申し上げておきたいのは、役員会のメンバーは全員が見識のある立派な方々であるということです。学外理事は航空会社や銀行の役員経験者ですし、学内理事も病院長経験者ら。誰かに言われて、その通りにしますというタイプの方々ではありません。
3点目は議論の中身はすべて記録に残っていること。記録を読むと、参加者がそれぞれ積極的に意見を出し、問題提起をされている様子が分かります。ですから、吉田さんの意向に従ってフリーパスのような形で病院長解任が起きた訳ではない。
