〝無罪請負人〟 弘中惇一郎弁護士が「根拠のない申請だった」
弘中惇一郎氏
疑惑ですらない特別補佐への報酬
――忖度でもなかった。
弘中 : はっきりとそう言えます。病院長解任のもともとの背景として、コロナ患者対応を巡る意見対立の問題はあったとは思います。ただし、あくまで背景としてです。
病院長は大学病院としての役割や、それまでの流れに反し、軽症のコロナ患者を旭医大病院に受け入れようとしました。当時は、大学病院側に問題なく受け入れることができる設備がありませんでした。
吉田さんと病院長との間で意見が対立し、それがあったから病院長は反撃のために内部の会議を録音し、メディアに流したと考えられます。
確かに当時の状況下で、コロナの軽症患者を大学病院で受け入れるか受け入れないかは非常に判断が微妙な問題でした。しかし、だからといって反撃の方法として卑劣な手を使うのはいかがなものか。その反撃の方法によって病院長は解任になった。
――厚生労働省などから吉田さんは「大学病院は最後の砦としての役割を」との指示を受けていたと聞きました。
弘中 : どういう表現かは関係なく、大学病院でなければ果たせない役割があるでしょう。他では治療ができない患者や、コロナ患者の中でも治療の難しい患者を受け入れるとか、地域医療の中で役割分担があるわけです。それを無視してはできない、というのが当時の吉田学長のスタンスでした。
――不正支出疑惑についてうかがいます。任期を過ぎていた学長特別補佐に報酬を出していことが取り沙汰されました。
弘中 : まず学長は特別補佐を選任する権限があり、その特別補佐には金融面のプロフェッショナルとして仕事をお願いしていました。
ところが残念なことに突然、意識不明の病気になってしまわれた。それで報酬をどうするか、という問題が起こったわけです。
普通の労働者であっても、病気になったからといって、とたんに給与が打ち切られるようなことにはならないでしょう。病気の程度によって会社側がさまざまな対応をとりますが、病気が治る見込みを考えてとりあえず報酬を出すことをやっていると思います。
法律的視点として契約がいつ更新されたかという部分はあるわけですが、いずれにせよ、契約を結ぶ片方が突然の病気で話ができない、意志疎通が困難な状態になった。その方にはご家族もいるわけです。当面は報酬を出してつなぎ、しかるべき時期が来たら精算するというやり方は常識的な判断でしょう。
その方の担当された仕事の重要性、それまで大学に尽くしてきた功績などもあります。そうした点を抜きにして、仕事をしていない特別補佐に報酬を出し続けたのはヘンだ、という問題提起の仕方自体が間違い。
――不正支出疑惑とも言えないと……
弘中 : 普通の不正支出とは文字通り不正な目的があるわけです。会社のお金を自分のポケットに入れるとか、仕事を出してはいけない所に出したとか。特別補佐として仕事をされていた方が突然の病気に見舞われ、その間の当面の対応を不正支出とネーミングすること自体、おかしい話です。
特別補佐が病気から回復された後、仕事ができなかった時期について精算されました。まったく常識的な、何の問題もない対応です。
――その問題が、解任申し出事由の不正支出疑惑の筆頭だった。
弘中 : 主たるものでした。
クーデターと決めつける根拠はない
――他は飲食費などは。
弘中 : 飲食についても数件ありました。例えば、吉田さんと大学職員が食事をした費用が、たまたま計上する費目を間違えていた件がありました。必要があって食事をし、その分が事務上の整理ミスだったからといって、吉田さんの不正支出にはなりません。
――吉田さんの解任を求めた学内の「正常化を求める会」が問題視していた、滝川市立病院とのアドバイザー契約は解任申し立て事由にありましたか。
弘中 : 入っていません。そのことからも滝川市立病院とのアドバイザー契約は、問題なかったと言えるのでは。
――昨年6月、吉田さんが辞表を出しました。なぜでしょうか。
弘中 : 私の理解では解任に対する辞表は意味がありません。解任の申し立てがあれば文科省は辞表を受理しないのですから。問題をうやむやにするために辞表を出したのでも何でもない。
大勢の方が辞めろと騒ぐ状況で、14年間も学長を続けてきてそろそろ潮時か、と吉田さんが思ったのではないでしょうか。
――吉田さんは学長選考会議が解任申し立てをする時、弁明の機会がなかったと主張していました。
弘中 : 1つは日程の問題だと考えています。今回、私たちが文科省の聴聞に際して弁明書を提出する時も、1カ月半ぐらい準備にかかりました。こちらも独自に調査をして反論するわけですから。学長選考会議が吉田さんに時間を与えずに弁明してください、とやっても、それは弁明の機会を与えたとは見なされません。
――解任申し立て事由は34項目あり、吉田さんの文科省での弁明に対し、大学側は3項目しか反論してこなかったそうですね。その3項目とは。
弘中 : 弁明の機会を与えたか否か、ある職員への発言、ある不正支出疑惑の3点についてでした。病院長へのパワハラ疑惑発言は入っていません。
――吉田さんはクーデターだったという認識ですが、どう思いますか。
弘中 : 普通は、正当な手続きを経ずに体制をひっくりかえすことをクーデターと言います。今回の問題をクーデターと決めつけるだけの根拠はないと思いますし、そもそも、その点を議論しても意味がない。
事実経過からすると、学長選考会議が問題を提起され、こちら側が反論を詳細にした結果、学長選考会議が解任の申し立てを取り下げたわけです。本来、根拠のない申請だったという認識です。
――吉田さんの退職金の減額が噂されています。どうしますか。
弘中 : 悪い部分があったから減額するといった判断ならば、減らされるのはおかしい、と言わざるを得ません。


