松野 知之【日本銀行札幌支店長】

©財界さっぽろ

全国の〝北海道ファン〟の力を結集、橋渡し役になりたい

 松野知之氏は、今年5月に日本銀行札幌支店長に就任した。函館市の出身で、初めての北海道勤務となる。道内経済は緩やかに持ち直しつつあるが、今後は物価高や円安の影響も懸念される。松野氏に今後の経済見通し、そして北海道活性化策を聞いた。

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(まつの・ともゆき)
1967年3月22日函館市生まれ。89年、東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。2002年大阪支店調査役、06年名古屋支店営業課長、13年那覇支店長、16年広島支店長、18年検査室検査役などを経て、22年5月から現職。

石川啄木の句のように札幌は広い

――松野知之支店長は函館市のご出身ですね。

松野 :  函館に高校まで住んでいました。大学進学のため北海道から東京に行きました。それまで函館の風景や食べ物が当たり前のように思って育ちましたが、函館は素晴らしい場所だったとあらためて実感しました。
 子どもの頃、札幌にも家族で何回か旅行に来ました。当時の札幌の印象は、「函館と違って、空が大きく見えて広いなぁ」というものでした。「さっぽろ雪まつり」の真駒内会場で、大きな滑り台で遊んだことも楽しい思い出になっています。
 実は今回赴任してきて、大通公園をたまたま散歩していると、石川啄木のモニュメントを見つけました。
 函館を旅立った啄木は1907年(明治40年)の9月14日から約2週間、札幌に滞在しています。
 歌碑には次のような句が刻まれています。
「しんとして 幅廣き街の 秋の夜の 玉蜀黍の焼くるにほひよ」
「幅廣き街」とあるように、啄木も私と同じように感じたのだと、とても感動しました。あらためて札幌の地を訪れると、高いオフィスビルも多く建設され、発展しているまちだと感じています。

――日本銀行を志望された理由は。

松野 :  大学から、日本経済、地域経済に貢献したい、という思いを持っていました。民間企業も受けましたが、人とのつながりもあり、当行に入ることを決めました。

――日銀に入ってからは、地方の主要都市での勤務も多いですね。

松野 :  これまで大阪、名古屋、那覇、広島の各支店で勤務してきました。私は当行行員の中で、とくに地方勤務が多い方だと思っています。今年5月から、30数年ぶりに故郷に戻って来ることができ、大変うれしく感じています。
 地方勤務でいろいろな方々とめぐり会うことができ、私自身の大切な財産になっています。それを北海道のために役立てていきたいです。

――日銀で勤務しながら、北海道の状況をどうみてきましたか。

松野 :  各地の経済を見るときも、根底に「自分の故郷が北海道である」という自負がありました。
「北海道はこうだった」「こういう違いがある」「この点は共通している」ということを意識してきました。
 とくに沖縄に赴任した時は、日本の北と南ということもあり、より強く感じました。沖縄も北海道と同じで観光が主力産業になっていますので。

物価高で〝家計防衛〟の動きが…

――北海道の経済状況をどのように分析されていますか。

松野 :  2年前から新型コロナウイルスによる影響が長らく続いてきました。
 それが収まってきて、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などのさまざまな制限も解除されました。
 ゴールデンウイークの人の動きも戻ってきています。外に出かけやすくなってきましたので、個人消費もプラスに働いています。

――その一方、あらゆる面での物価高が叫ばれています。

松野 :  ウクライナ情勢が一つのきっかけとなり、原材料、食料品、燃料の価格が高騰し、北海道にも影響を及ぼし始めています。
 物価が上がると、消費者も〝家計防衛〟の動きが出始めてきます。
 たとえば、従来以上にセールやポイント還元率が高い日に商品を買う比率が高まります。現に流通業界の方々から、そうした動きが現れてきているという声も寄せられています。
 とくに北海道では、寒い時期になると、燃料費、暖房費の負担が、ずしりと家計にのしかかります。
 いまの時点では、コロナのマイナスから回復してきており、経済を上に引っ張る力の方が勝っています。そのため、道内経済は全体としては、緩やかに持ち直している状況といえます。
 今後、世界が平和になってくれることを念願しますが、なかなか将来を見通せず、先行きに不安を抱えています。
 企業はコロナの厳しい状況の中、耐えていた面もありましたが、これからはコロナ後を展望して、取り組まなければいけない課題を持ち合わせています。
 昨今の物価高の中で、今後も前向きに取り組んで行くのか。それとも一度立ち止まるのか。しっかりと状況の変化を見極めていきたいです。

――物価高に加えて、円安も進んでいます。そうした中、日銀はどんな対策を講じていますか。

松野 :  海外では日本より早いスピードでインフレが進んでいます。そのため、海外の中央銀行の多くは、金融の引き締めに舵をきっています。
 為替はその時々の状況で、どのような要因が一番重視されるのかに注目します。いまは海外と日本の金利の差に着目しているため、為替が円安方向にシフトしているということです。
 企業の設備投資といった活動だけではなく、住宅や自家用車のローンなどの個人消費を下支えていくためには、現況の低金利の環境は大切になります。
 海外と国内の経済情勢を鑑みた上で、当行では大胆な金融緩和を継続しています。

――コロナ前、多くのインバウンドが道内を訪れて、観光業界は活況を呈しました。円安については、インバウンドを迎え入れる上ではチャンスになります。

松野 :  実は2013年、14年の頃にも円安が進みました。そのタイミングで、日本のインバウンド、観光が大きく伸びていきました。そういう意味で、為替の部分に着目すれば、円安に関しては、日本を旅行しやすい環境が整うので、インバウンドにはプラスに働きます。
 ただし、コロナによる入国制限がまだかかっているため、入口の部分が広がっていません。今後、そうした制限が段階的に緩和されていけば、さらなるプラス効果が期待されます。とくに観光産業のウエートが大きい北海道のような地域には、大きなチャンスがめぐってくると思います。

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