【無料公開・本誌2022年11月号再録】ファイターズ・細野晴希が快挙!アナウンサーはノーヒットノーランの瞬間をどう伝えるのか

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左から、きつねダンスのポーズをとる水野善公アナ、山内要一アナ、小山凌アナ

 下馬評高く、2016年シーズン以来のリーグ優勝、日本一の期待が高まる今シーズンの北海道日本ハムファイターズ。敵地に乗り込んで迎えた、昨年の覇者・福岡ソフトバンクホークスとの開幕カードはまさかの3タテを喫した。

3月31日、エスコンフィールドHOKKIDOでの本拠地開幕戦。苦境を吹き飛ばす快投を見せたのが、先発したプロ3年目24歳の左腕・細野晴希投手だった。打者29人に対してノーヒットノーランを達成。チームの連敗を3で止め、今シーズン初勝利に導いた。

 9回128球を投げ、12奪三振。許したランナーは初回の先頭打者へのフォアボールと4回1死からのデッドボール。9回2死から一塁失策の3人のみだった。

 細野投手自身はプロ初完投。1軍通算9戦目で、史上91人目の快挙だった。23年に開業したエスコンでは初の達成者となった。

 ノーヒットノーラン達成の当日夜のスポーツ番組の多くが、試合のハイライトで、9回2死、一塁を守っていた清宮幸太郎選手がエラーをし、苦笑いする映像が使われ、その後、ゲームセットで細野投手が喜ぶ瞬間が流れていた。

「事前に2つのフォアボールがあったから、エラーがあったとしても完全試合にはならないため、清宮選手が少々かわいそうだった」(ある野球ファン)という声もあった。

 偉業達成にファンは大いに喜んだが、歴史的瞬間を伝えるのが実況アナウンサーの大事な役目だ。昨夜はUHBがテレビ中継を行っていたが、番組編成の都合上、試合終了の瞬間を伝えることはできなかった。試合終了まで〝完全中継〟を掲げるラジオはHBCとSTVの2局が放送。その瞬間を、実況を担当したHBCの渕上紘行アナは「大記録達成~!細野、2024年6月7日、広島の大瀬良(大地)の対ロッテ戦以来、史上91人目、103度目のノーヒットノーラン達成!」、STVの岡本博憲アナは「細野、ノーヒットノーラン達成!近代野球では最速、開幕から4試合目でのノーヒットノーラン達成!」と伝えた。

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 本誌22年11月号では「ファイターズ実況アナウンサー鼎談〝さらば札幌ドーム〟」として、HBCの山内要一・水野善公アナ(山内氏は現在、旭川放送局長に転籍、水野氏は退職)、NHKの小山凌アナが誌面登場。鼎談を企画したのが、この年、ノーヒットノーランが2度も本拠地だった札幌ドームで生まれたことだった。誌面では歴史的瞬間を伝えたアナウンサーの心境などを語っている。当記事を財さつJPで無料公開する(肩書きなどは当時掲載のまま)。

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 HBCの水野善公アナウンサーの持ち込み企画。ファイターズは今年、札幌ドーム・ラストイヤーだった。そのシーズンにノーヒットノーランの快挙が2度も生まれた。その大記録を伝えた実況アナによる鼎談。局の枠を越え、札幌ドームの思い出、実況の裏側などを語り合った。

ノーヒットノーランに触れられない

水野 : 小山アナは今年、テレビの実況デビューだったんですね。

山内 : その中でノーヒットノーランを実況したんだ。

小山 : 正直、大記録にビビる気持ちもありました。

水野 : 何回目の実況だったんですか?

小山 : 今年のオープン戦が1試合目で、ペナントレースだと2試合目でした。

水野・山内 : えー⁉

水野 : すごいね。小山アナが実況する上で何か意識していたりすることはありますか?

小山 : 試合中はトイレに行けないので、前日の夕食から考えて食事をするとかですかね。

水野 : 実況あるあるだね。

山内 : 油ものを取らないとかもね。

小山 : あとは、水分の調整でしょうか。

水野 : 実は私、頻尿なんですよね(笑)。野外だと、寒いので、めちゃめちゃ尿意を催すんですよ。
 かつて、函館のオーシャンスタジアムでラジオ実況をした際、念のため、おしめをしました。実況席からトイレが遠く、CM中でも基本、行けませんから。
 次は今シーズンの札幌ドームでのノーヒットノーランについて。まず6月7日にDeNAの今永昇太投手がファイターズ戦で記録達成。その試合をHBCラジオで実況を担当したのが山内アナでした。

山内 : 今年、アナウンサー歴27年目ですけど、ノーヒットノーランを伝えたのは初めてのことでした。ファイターズ応援中継だったんだけど、相手チームが記録達成だったからね。
 私はお二人と違って、あおるどころか、純粋にあまり触れられなかった……。でもね、記録はすごいことだから、達成したら、きちんと伝えました。

水野 : その実況で一番意識したことは?

山内 : 史上何人目、誰々以来何人目、パリーグ何人目など、試合中にデータはそろっていました。でも、ファイターズファン心理を察し、ギリギリの9回2アウトまで言わなかった。

水野 : 私ね、この鼎談企画が決まってから、お二人の今回の実況をチェックしたんですよ。

山内 : すごいね!

水野 : 同じ光景をほかの方がどう伝えたのか、興味深くなって。
 そもそも、試合途中にノーヒットノーランの話題に触れたら、打たれてしまう。そんな実況あるあるがあって。ですから、完全試合、ノーヒットノーランには触れないという暗黙のルールのようなものがあります。
 小山さんは、ファイターズのコディ・ポンセ投手がホークス戦で記録を達成した8月27日の試合をテレビ実況で伝えました。ちなみに、私はHBCラジオでの実況者でした。
 小山アナはノーヒットノーランに触れる、触れないを意識しました?

小山 : そもそも、ノーヒットノーラン自体を意識していませんでした。私自身、ノーヒットノーランを生で見たことがなかったのと、ポンセ投手も札幌ドーム初登板でした。ですから、まずはどんな投球をするのか、一球一球丁寧に見ていこうという意識でした。
 でも、ノーヒットノーランを意識するようになったのは5回表くらいですかね。そこから、やっぱり直接の言葉は使わないようにはしました。

水野 : 私もチェックしましたけど、小山アナは言い回しも非常に慎重にしている印象でした。
 ちなみに、快挙達成までに「ノーヒット」という言葉をみんなが何度言ったか。小山アナは12度、山内は9回だけで8度たたみかけて16度。
 でね、私は2度でした。ノーヒットという言葉を使わないで、いかにそれを伝えようかと考えて。でも、聞いた人は逆に「すごくイライラする実況だな」と感じたかもしれないと思って。実況歴13年目なんですけど、私も快挙の瞬間に立ち会ったのは初でした。

山内 : 水野アナの実況を聞いていたけど、なかなかノーヒットノーランって言わないなと思ってた。

水野 : HBCラジオの制作でしたけど、中継自体は相手チームの福岡にも流れていたので。そのあたりも少し意識しました。
 実は、面白い話があって。ノーヒットノーランに触れたら打たれるという話をしましたけど、8回表に、ショートゴロを中島(卓也)選手がファインプレーをしてアウトにしました。
 振り返ると、あの試合のハイライトだったと思うのですが、その直前、小山さんが「(ファイターズ投手の達成者は)まだ札幌ドームでは出ていません。達成したら、95年の西崎(幸広)さん以来、27年ぶりです」と言ったんですよ。
 すると、あのいい当たり。「あ!」と思いました?

小山 : あの打球の瞬間、少しひやっとしました。

3人 : (笑) 

小山 : 私の実況に付き添ってくれていた先輩アナがノーヒットノーランに関する情報をくれつつあって。解説の田中賢介さんからも「野手のファインプレーなどがないと、ノーヒットノーランは達成できない」と、ジンクスのようなものも語ってくれていました。 

観客席と実況席が近く、その熱気が

水野 : ファイターズにとって札幌ドーム最終年でした。実況の思い出は?

山内 : 私は2019年の開幕戦、中田翔選手のサヨナラ満塁ホームランの瞬間ですね。札幌ドームではサヨナラゲームも何度か立ち会っているんですけど、あの時の球場の雰囲気が一番すごかった。そもそも開幕戦の雰囲気は独特ですからね。
 実は、この試合は私にとって、開幕戦の初実況でした。こんなに緊張するんだというのを覚えています。
 試合は延長10回裏、ランナーが1人出て、その後、相手チームは2人の打者を申告敬遠したんですよ。そして、打席に入る中田選手に対し、ファンは大声援を送りました。
 私の実況の声が聞こえないんじゃないかなと思うくらいでした。大声援が打たせた一打でしたね。前の2人が歩かされたことで、中田選手も熱くなっていた。

小山 : 私はやっぱり今年のポンセ投手の大記録ですね。また、札幌ドームは自分の実況者としてスタートした場所。昨年6月のラジオ実況がそれでした。
 子供のころは野球少年だったので、プロ野球の実況をしたいと夢見ていました。
 ですから、この球場の実況席はもう一生忘れられない場所になりました。山内アナ、水野アナと比べたら、ファイターズ戦の蓄積は少ないですけれど。今後、ファイターズ戦で、その場所に行けないのはちょっと残念ですね。

水野 : 私は、やっぱり16年の大谷翔平投手の165㌔かな~。これを上回る興奮、緊張、スリルとかはない。
 大谷投手が日本最速を打ち出した後、その流れで「大谷が大谷を超えていく」という実況をしました。この語りはまぁまぁはやったんですよ(笑)
 札幌ドームは放送ブース(実況席)が観客席の中にありました。このようなつくりは12球団の本拠地で、札幌ドームと甲子園だけですね。ほかの球場は部屋みたいに隔離されているんですよ。
 札幌ドームは観客席の中に放送ブースがある分、観客の熱気をじかに感じられる。それを実況で伝えることができた。観客席と実況席の一体感というのはすごいですよ。
 聞くところによると、ボールパークの放送ブースはガラス張りの部屋みたくなっているそうです。イーグルスやロッテの本拠地がそういうつくりですね。

山内 : ここ数年間はコロナ禍で、観客の入場制限がかかるケースが多かった。無観客試合もありました。最近のドーム内は少し寂しかったね。
 実は9月28日の札幌ドーム最終戦も実況させてもらったんですよ。観客は久しぶりの4万1138人の超満員。札幌ドームは球場内の形状がいいんですよね。「わー」という歓声の反響が独特なんです。
 最終戦では4万1138人の歓声が屋根に跳ね返っていました。その鳴り響き方に「今日が最後なんだな」と改めて感じました。
 ボールパークでは満員の雰囲気がどんな感じになるのか楽しみですね。

水野 : 屋根が開くようなので、歓声の反響が気になりますね。実況者としては、空を描写したり、風向きを伝える。そういう楽しみがありそうです。

小山 : グラウンドと観客席の距離が近いようですね。その描写を伝えてみたいです。あと、フェンスも低いようですから、ホームランが増えると思っています。

水野 : みんなのホームランコールが増えるかも。 
 あと、トイレ問題を力説したけど、ボールパークで言うと、実況席の近くに設置されるといいな。

3人 : (笑)

――放送局の垣根を越えたご協力ありがとうございました。  

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水野善公
(みずの・よしまさ)5月18日、広尾町生まれ。2009年HBC入社。HBCラジオ「気分上昇ワイド・ナルミッツ!!!」(月~金)などを担当。
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山内要一
(やまうち・よういち)12月29日、北見市生まれ。1996年HBC入社。ファイターズ中継を中心に活動。
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小山凌
(こやま・りょう)東京都生まれ。2015年NHK入局。21年から札幌放送局。プロ野球や、テニス、ウィンタースポーツの中継を担当。

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