道内学校法人(大学・短大)お金持ちランキング

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教育は国の根本。その重要な責務の一翼を私学は担う。民間であるがゆえ自由度は高いが、一般企業と同様に経営は自己責任。少子化に挑む道内私学の〝リアル〟と奮闘に焦点を当てた。

学校法人の本分は利益ではない、教育と研究だ。しかし、お金がなければ行き詰まる。道内で大学・短大を展開する学校法人の財務データを分析。ランキング形式で上位の法人を紹介する。

文科省が〝お金を出しません宣言〟

 文部科学省が8月30日、修学支援制度の対象学校から外す大学・短大を発表した。この制度は家庭の経済状況にかかわらず、高等教育を受けられる仕組み。授業料などが減免され、その分を国が負担する。
 対象学校は収容定員充足率(全学年の合計定員と在籍学生数の比率)などの一定の要件を満たす必要があり、今回、道内の大学、短大がそれぞれ1校ずつ取り消し対象に入っていた。要件は今後、さらに厳格になる予定だ。
 私学業界に20年以上たずさわるベテランは「生徒が集まらない大学や短大には〝お金を出しません宣言〟ですよ」とストレートに表現する。
 私立の大学、短大、専門学校には、経常費補助金の名目で国のお金が入っている。2023年度は843校に約2976億1600万円が交付された。単純平均で、大学は1校当たり約4億8700万円、短大は約4800万円だ。 
 学校の最大の収入源は学生が収める納付金(入学金や授業料など)だが、補助金も安定経営には欠くことができない。
 ただ、国はすでに実質的に政策を転換している。24年度から5年間を集中改革期間と定め、国立も含めた大学再編を促す。
 方針転換の理由は言うまでもなく、加速する少子化。
 大学入学者数は23年度約64万人いたが、文科省の推計では40年度は約51万人に減少。定員縮小や学科・学部の統廃合といった対策だけでは、この少子化ショックを受け止めきれない。
 私学の関係者がかねて危惧していた「大学がつぶれる時代」がいよいよ到来しているのだ。
 学校法人の生存競争において、教育の理念・内容もさることながら、お金も無視できない。そこで今回、道内に本部を設置し、大学・短大を運営している各学校法人の財務データを分析。3つの経営指標ごとに上位10法人を掲載し、お金持ちランキングとした。
 財務データは各学校法人がホームページ上で公表しているが、釧路の緑ケ丘学園は8月30日時点でアップされておらず、分析対象から外した。
 また、札幌の藤学園と天使学園も省いた。両学校法人は統合し、この4月に藤天使学園となったばかり。新法人の決算データも存在しないからだ。
 ところで学校法人の財務諸表は、企業会計とは仕様が違う部分が少なくない。用語も異なる。多少の説明を入れながら、各ランキングについて解説していく。

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電子開発学園は最上位ランク

 最初のランキングは直近3カ年の平均経常収支差額比率だ。
 学校法人の本業は教育である。その本業の収入に、預金利息などを加えたものを経常収入と呼ぶ。その逆が経常支出。教育にかかわる費用、借入金利息などが計上されている。
 この2つの差額を経常収入で割った値が経常収支差額比率。学校法人の健全経営度を示す代表的な指標で、比率が高いほどいい。
 比率にしているのは、経常収支差額が同じ1000万円であっても、マンモス大学と小規模な短大ならば、その重みがまったく違うため。
 留意点は減価償却費も経常支出に含まれること。新校舎建設など大規模整備を実施した学校法人は、比率がどうしても下に引っ張られてしまう。
 トップは江別の北海道情報大を運営する電子開発学園だった。1法人だけ、ふた桁となった。
 北海道情報大はICT系が守備範囲でマネジメントも学べる。昨今のDX、AIの潮流にまさにマッチしている。
 北海道情報専門学校を始め、全国各地に情報系専門学校も展開。各専門学校との連携を強めており、専門学校で得た単位を大学の単位として認める「大学併修コース」は、私学関係者間で評価は高い。
「学生のニーズに応え、通信教育にも力を入れています」(法人本部の幹部)
 他の経営指標でも電子開発学園は高水準だ。ランキング指標から省いたが、教育活動によるキャッシュフローを現す教育活動資金収支差額比率も全国平均を上回る。
 日本私立学校振興・共済事業団の基準による経営状態の区分で、最上位ランクのA1を維持している。
 2番目の北翔大学は1939年創設の北海ドレスメーカー女学園が原点。2000年に共学に移行した北翔大学の学生男女比は現在、イーブンに。共学化作戦は功を奏したようだ。
 大学の収容定員充足率も約110%(24年5月)で、ちょうどいい案配だ。
 私学の運営陣は、この収容定員充足率を非常に気にする。なぜなら、この比率によって、交付される補助金額が左右される。
低すぎても、高すぎても補助金がカットされる。
 学生が多ければ多いほど納付金は増える。しかし、収容定員充足率が一定水準を超えてしまうと最悪。補助金の不交付、つまりゼロになる。
 不交付水準は大学の規模などによって異なる。収容定員4000人未満の小規模大学の場合、24年度基準では140%以上で補助金が交付されない。
 また、学部新設の申請にも、この収容定員充足率が関係する。大幅な定員割れが発生している場合、逆に定員超過が著しい場合、新設は認められない。
 学生のニーズや社会の潮流に対応して大学・短大は、学びのメニューを見直さなければならない。それができなくなるわけだ。
 3番目に平均経常収支差額比率が高い北海道星槎学園は、経営再生の好例と言っていい。運営する星槎道都大は北広島にあり、学校法人大手の星槎グループ入りする前、厳しい時代があった。
 経営改善計画を策定し、グループ本体の人的支援を受けながら、学生募集、施設整備など各テーマで改革に取り組んだ。成果は着実に出ており、収容定員充足率はアップし、納付金収入も上昇していった。
「計画を上回るペースで改善することができました」と法人幹部。さらにこう続ける。
「なんといっても、教員が協力してくれて、一緒に取り組めている」
 教育機関でしばしば起こるのが、教員側と運営側の齟齬。しかし、星槎道都大は、教員の協力が欠かせない生徒募集イベントのオープンキャンパスを、他大学に先駆けて年に数回、実施している。
 教員と法人本部の密な連携の結果、「特色ある教育の展開」に対する改革総合支援事業補助金を23年度、獲得した。
 法人幹部は「特長を打ち出し、小規模大学なりのやり方はある」と自らの母校の改革を緩めることなく、推進する考えだ。

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動向が注目されている北星学園

次のランキング指標は基本金組入前当年度収支差額。前述の経常収支に資産売却などの臨時的な収支を加えたもの。イメージとしては、企業会計の当期利益に似ている。直近3カ年の平均値を算出した。
 3位の日本医療大学は、介護の道内大手・つしま医療福祉グループが母体だけに経営も安定している。運営する大学は看護、リハビリ、各医療検査の学科を擁しており、医療と福祉の総合系大学と言える。
 21年に札幌市豊平区に本キャンパスを整備しており、多額の減価償却費を計上した上で、基本金組入前当年度収支差額のプラスをしっかり維持している。
 5位の北星学園は、道内私学名門の一角を占める。その歴史は古く、明治の開拓期までさかのぼる。キリスト教系で歴代理事長はクリスチャン。大学、短大、高校、中高一貫校を運営している。中退生徒も積極的に受け入れる取り組みが話題になり、テレビドラマにもなった北星学園余市高も傘下校だ。
 長い歴史の中で積み重ねたブランドと財産を糧に安定的な経営を維持しているものの、名門にも推し寄せる少子化の波に対して「改革に取り組もうとしている」(道内学校法人の幹部)とされ、動向が注目されている。

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多い破綻原因は資金ショート

 三つ目のランキングはいわゆるフリーキャッシュ。借入金や学校債といった外部負債を上回る現金・預金、有価証券の合計額(23年度末時点)だ。
 実は、学校法人の破綻原因でもっとも多いのは資金ショート。施設や設備の維持・改修に加え、たくさんの教員やスタッフを抱える教育機関の性質上、毎月の支出はばかにならない。
 サポート収入である補助金は大学・短大の場合、交付タイミングは3月と12月の2回。そのため、補助金依存度が高く手持ち資金が薄い学校法人は、補助金交付のはざまの時期、やり繰りに苦労しがちになる。
 近年、本業の状態を示す経常収支差額がマイナスの学校法人が、全国的に増加している。今後、勝ち残っていく上でも蓄えの重要性は増している。
 もっともフリーキャッシュが潤沢なのは北海学園だ。道内私学の雄と称される北海学園大の在籍者数は約8000人で道内最大。歴史のある名門でもあり、道内企業の社長出身大学ナンバーワンとしても知られる。
 ほかに北海商科大、北海高、北海学園札幌高を運営しており、生徒が収める納付金は23年度で94億円を超す。長年の安定経営の結果が176億円のフリーキャッシュ額となった。
 4位の北海道科学大学も特筆すべき。傘下の高校を23年に移転新築。ここ数年は大学の各種施設をブラッシュアップしている。多額の設備投資にもかかわらず、フリーキャッシュに余裕がある。      (野口)

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