【独自・無料公開】vs文春裁判で松本人志の代理人に就任 石川知裕(元衆院議員)が語る「陸山会事件」時の田代政弘弁護士(元東京地検特捜部検事)

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石川知裕氏

 週刊文春2023年12月27日号に掲載された、ダウンタウン・松本人志氏による一般女性への性行為強要疑惑。その一報と同じ日、松本氏の所属する吉本興業は「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」と掲載された内容を否定した上で「今後、法的措置を検討していく予定」とした。

 松本氏は年明けの1月8日になり「まずは様々な記事と対峙して、裁判に注力したい」として芸能活動を休止。そこから2週間を経た同22日、吉本興業を通じ、民事訴訟を提起した。

 訴訟は松本氏自身が起こしたもので、代理人は八重洲総合法律事務所所属の弁護士、田代政弘氏。吉本興業の公式Webサイトに氏の名前が出てから間もなく、SNSなどでその経歴が大きな話題となっている。東京地検特捜部検事時代の2010年、衆院議員・小沢一郎氏が政治資金規正法違反に問われた「陸山会事件」で、元秘書・石川知裕氏らの取り調べを担当。その過程で作成した捜査報告書の内容を捏造したとして懲戒処分を受け、検察官を辞めざるを得なくなったからだ。

 小沢氏とその資金管理団体「陸山会」による不動産取得にまつわる同事件では、土地取得の原資などを政治資金収支報告書に記載しなかったなどの疑いで市民団体が石川氏ら秘書3人と小沢氏をそれぞれ刑事告発。東京地検特捜部は小沢氏を後述の通り不起訴処分とする一方、秘書3人を逮捕、起訴し、のちに全員の有罪が確定した。

 事件や裁判の詳細については、市民団体「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」Webサイトなどを参照されたい。

 さて、月刊財界さっぽろでは、事件当時北海道11区選出の民主党所属衆院議員だった石川氏の周辺を徹底取材し、その視点から見た事件の裏側に迫るドキュメントを掲載した。

 2010年1月15日、石川氏は宿泊中の帝国ホテルで東京地検特捜部に逮捕された。その後22日間におよぶ拘置所生活では、田代氏以下、特捜部検事による取り調べが毎日9時間前後も行われたという。

 取り調べは紳士的だったとも言われるが、勝負どころでは2、3度、検事に怒鳴られたという。小沢氏に裏献金を贈ったとされる建設会社との関係を問われた時だ。

 その際は建設会社の元幹部が「受注の謝礼として5000万円を石川氏に渡した」と証言。特捜部は「不動産購入の原資の一部に裏献金が含まれている」として捜査を進めた。特捜部のシナリオでは、規正法違反ではなくこちらが石川逮捕の“本丸”と目されていた。

 身に覚えがないという石川氏に対し、検事は不動産購入の原資には「違法なカネが含まれているだろう。こっちだってちゃんと調べているし、証拠を持っている。あとはあなたがしゃべるだけだ」と声を荒らげたとされる。

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選挙資金規正法違反で起訴された石川氏(中央)は、保釈が認められ、東京拘置所をあとにした。右は衆院議員の松木謙公氏(2010年2月5日撮影)

 その後も小沢氏の虚偽記載や裏献金などで堂々めぐりが続き、当時は最後まで裏金がないことを信じてもらえなかったという石川氏は、本誌の取材にこう話す。

「(田代さんは)大学が私と同じ早稲田大学で野球部出身。私も学生時代に野球に打ち込んだので、そういうところから会話が始まった記憶があります。印象としては人情味のある親分肌、熱血漢といったもの。ただ、上役から(小沢氏に関する証言を引き出すよう)圧力を受けていたのでしょうね。『何かやらないと点数にならないぞ』という。取り調べでは焦りというか、そういうものを感じた時もありました」

 この時に取られた石川氏の供述調書について、東京地裁は「威圧や威迫、利益誘導があり、自白調書には任意性がない」として相当数を不採用とした。その中には、政治資金収支報告書の虚偽記載について小沢氏に報告、了承を得た旨の証言も含まれていた。

 焦りを募らせた田代氏らはさらに、石川氏への取り調べをもとに作成した捜査報告書に、実際になかったやりとりを記載。この捜査報告書は小沢氏を不起訴処分とした後、検察審査会で強制起訴に至る過程で重要な判断材料になったとされ、小沢氏の裁判に際して東京地裁が検察を厳しく批判することとなった。

 時折しも、大阪地検特捜部が証拠の改ざんを行ういわゆる郵便不正事件で検事が逮捕される大スキャンダルが起きていた時期。田代氏も最高検で懲戒処分を受けたその日に依願退職した。その後は民間企業などを経て弁護士登録し、いわゆる“ヤメ検”弁護士として活動してきた。

 ちなみに田代氏は、世間を騒がせている自民党の派閥“裏金”問題で、震源地である安倍派(清和政策研究会)の弁護団にも加わっているという。永田町関係者はこう話す。

「安倍派は元最高検検事の名取俊也氏(ITN法律事務所所属)が顧問を務めているといいます。名取氏は早稲田大学出身で、東京地検でも田代氏と同じ釜の飯を食べた直系の先輩。2021年には、安倍晋三・菅義偉の両元首相の最側近で、公職選挙法違反で逮捕された元法務大臣の河井克行氏の裁判で、この2人が弁護を担当したことが知られています」

 なお、今回の裁判で文春側の代理人を担当するのは、同社顧問の喜田村洋一氏。喜田村氏は小沢氏の裁判で「無罪請負人」と呼ばれる弘中惇一郎氏とともに弁護を担当。田代氏と法廷で直接対峙している。世間の大きな注目を集める中、因縁の対決が始まる。

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