オーナーは詐欺事件の被告人 旭川・中川ビルを売却、マルカツビルを巡って慌ただしい動き

「札幌で遠藤大介の顔を見たよ。シャバに出ているんだね」。７月下旬、そんな情報が寄せられた。「遠藤大介」は現在、刑事事件の被告人だ。
　コロナ補助金詐欺の摘発が相次いだが、遠藤被告の事件もその類い。６月中旬、国や道から計４２２万円をだまし取った詐欺罪で、懲役２年６カ月の実刑判決が札幌地裁で下された。新聞報道によると、遠藤被告は即日控訴したという。
　遠藤被告が道警に逮捕されたのは昨年９月。その後、さまざまな疑いで再逮捕される。遠藤被告に複数の犯罪を犯した疑いがあったのは間違いない。ただ、１回の逮捕で勾留は最大20日までなので、道警は勾留期間の延長を狙ったのだろう。
　道警は徹底的に遠藤被告を調べる必要があった。理由は、遠藤被告のバックグラウンドにある。昨年９月に遠藤被告を逮捕したのは道警捜査４課だ。４課は暴力団などを扱う部署である。
　遠藤被告は以前も逮捕された経験が複数回あるが、いずれも不起訴になっていた。今回、刑が確定すると、初めての服役になる。
前述したように控訴はしているが、遠藤被告を知る人物は一様に、1審が覆る可能性は低いと見ている。
　そのため、旭川で慌ただしい動きがある。舞台は、市の中心部にある大型不動産だ。
　遠藤被告は２１年３月、マルカツビル（４条通７丁目）の建物と土地の大部分を取得。同年７月には、残りの部分の所有権も地元企業・湯浅から取得し、完全なオーナーとなった。
　マルカツビルは旭川市民にとって地元の顔のような存在だった。市内のメーンストリートである「買い物公園」に面し、長い間、市民に親しまれた「マルカツデパート」があったからだ。
　マルカツビルには複数の根抵当権が付いている。１つが、債務者を宗教法人・栗嶋教会とするもの。極度額は２億４０００万円で、あすか信用組合が根抵当権者。
　形式的には、栗嶋教会があすか信組から金を借り、遠藤被告が所有するマルカツビルを担保にしているが、実態としては、借りたお金は遠藤被告に流れていると見ていい。
　遠藤被告のよくない評判は金融機関も十分に承知している。本人では金融機関から融資を受けることは難しいため、こうした形を取らざるを得なかったのだろう。遠藤被告は融資契約の保証人になっている。
　もう１つの根抵当権は、債務者が遠藤管財合同会社で債権額は１億４０００万円。抵当権は旭川在住のＫ氏。
　要するに遠藤被告はマルカツビルを担保に、最大で３億８０００万円を借りたわけだ。
　遠藤被告はマルカツビルを再開発する意向だった。おそらく再開発事業で入るお金で借金を返すつもりだったのだろう。
　しかし、遠藤被告は逮捕され、再開発の動きは完全にストップ。ビルはずっと閉館したまま。遠藤被告からの返済は滞っているはず。しかも３件も旭川市の差し押さえ登記があることから、遠藤被告が税金を滞納したままであることがわかる。
　手続き上、行政がすぐに競売にかけることはないものの、遠藤被告に金を貸した側が焦らないはずがない。
　ある不動産会社社長は「マルカツビルの売却の話が出ています。業を煮やしたあすか信組が動いているとの噂も耳にしています」と打ち明ける。
　不動産ブローカーも目を付けている。
　大和ハウスが旭川でタワーマンション事業が成功を収めてから、「旭川でも不動産開発で儲けられる」というムードが業界内にある。背景には、道内のマンション主戦場である札幌の地価が高くなりすぎ、新たなマーケットを模索しているという側面もある。
　マルカツビルは市内中心部にあり、敷地も広い。再開発にぴったり、というわけだ。
　しかし、最大のネックはオーナーだ。逮捕歴が複数あり現在は刑事被告人。反社勢力との接点が疑われる人物だ。
　暴力団対策が徹底されている中、普通の大手企業が直接、遠藤被告と取り引きするのはリスクがでかい。
　「遠藤被告との間にワンクッションを入れ、いったん〝クリーン〟にしなければ大手との売買はしにくいでしょう」（前出の不動産会社社長）
　そのため、ブローカーの出番というわけだ。
　ただ、遠藤被告の刑が確定した場合、実刑なので服役する。その前に話をまとめたいため、マルカツビルを巡る動きが急に慌ただしくなっている。
　実際、遠藤被告が所有する別の旭川の不動産は７月、売買された。
　マルカツビルと同様に買い物公園に面する中川ビル（４条通７丁目）だ。こちらにも、マルカツビルに担保を付けていたＫ氏の８０００万円の抵当権が付いていた。登記で確認すると、７月１０日付けで札幌に本社がある双葉ホールディングスが取得。Ｋ氏の抵当権は解除されている。
　さる不動産業界関係者は「マルカツビルの関係者たちは９月をメドに動いているようです」と話す。