【国内初の風力専門・コスモエコパワー 野地雅禎社長】〝北海道に育てられ、これからも一緒に〟
日本経済がバブル崩壊に瀕していた1997年。道内では北海道拓殖銀行が破綻した年に、いち早く風力発電の旗を掲げた企業がある。そのベンチャーが現在のコスモエコパワー。草創期から本道と深い縁で結ばれている。
留萌に第1号の風力発電所を設置
コスモエコパワー主催の洋上風力セミナーが11月18日、札幌市内で開催された。来札した野地雅禎社長に話を聞いた。
野地氏は大手金融機関での勤務を経てコスモエネルギーグループに入社。再生可能エネルギー部門を担当し、昨年春から現職に。
――創業の経緯について教えてください。
野地 : 創業は1997年。日本で初めての風力専業の会社で、2010年にコスモエネルギーグループの一員に加わりました。創業期からいる役員に話を聞くと、草創期は社員10人足らずの、まさにベンチャー企業でした。
風力発電に取り組む契機は、創業者がデンマークに防火扉を買い付けに行ったことです。現地在住のケンジ・ステファン・スズキさん(社会企業家)と会い、北欧で風力発電が普及し始めていることを知り、最初は、風車の輸入事業から始めました。
発電事業への参入は、太陽光に関する余剰電力買取制度が国内で始まった頃です。風力発電もビジネスとして成り立つ時代が来る、と考えた創業者らは本格的に投資を始め、発電・売電事業へと業容を広げ、現在は約180本の風車のメンテナンスも基本的に自社で行っています。
――創業当時、風力専業は珍しがられたのでは。
野地 : 国内産業界の関心はさほど高くはなかったと聞いています。設立から10年で当社の事業規模は約12 万㌔㍗(設備容量)でした。
転機は、東日本大震災後に始まったFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度、2012年〜)です。この制度が追い風となって急速に拡大し、事業規模は約30万㌔㍗(21年9月末時点)になりました。
売上高は毎年伸びており、今期のコスモの再エネ事業全体では約140億円の計画で、そのほとんどが風力発電事業です。人員はFIT制度のスタート時と比較すると約3倍になりました。
ところで当社の歴史について話をする上では、北海道は絶対に外せません。創業間もない1997年の12月に私どもにとって道内で初めての発電所を留萌に開設し、その後5年程度の間に、松前、追分、厚田、羽幌、稚内、根室など、道内10カ所に設置をさせていただきました。
まだ「風力発電ってなに?」と言われるような時代に、私たちを受け入れていただいたのです。創業期の礎があるわけですから、北海道、道民のみなさまに育てていただいた会社だと思っています。
――本道と縁が深いのですね。送電事業にも取り組んでいると聞きました。
野地 : 北海道北部風力送電という会社に、ユーラスエナジーホールディングスなどと一緒に参画をしています。稚内市から中川町までの送電網(延長約78㌔)を整備しており、2022年夏頃に完成する予定です。
22年度末には、当社が稚内の上勇知で建設を進めている約5万㌔㍗の陸上風力が稼働する運びです。
――道内だけで、どのぐらい占めているのですか。
野地 : 先ほど申し上げたように全体で約30万㌔㍗あり、道内の風車だけで約20%も占めています。さらに、足元の計画では、道南エリアに新たな陸上風力を設置することになっています。
――洋上風力発電についてうかがいたい。
野地 : 洋上を考えた時、国内でもっとも風がいいのが北海道です。しかし、課題があります。
現状で風力発電導入量が一番多いのは青森県ですが、背景にあるのは送電網事情です。青森県は大消費地の首都圏まで太い送電網でつながっており、事業者としては参入しやすい。
一方の道内はご存じのように、津軽海峡の海底に敷かれた北本連系線で本州とつながっていますが、利用可能量は限られています。そのため発電しても、本州へたくさん電力を送ることがなかなか難しい。
ところが、流れが大きく変わりました。政府は官民挙げてカーボンニュートラルに取り組むと宣言。40年までに洋上風力で3000〜4500万㌔㍗の導入を掲げております。
この野心的な目標を達成するには、適地である北海道が欠かせません。北海道と本州をつなぐ新たな送電網の整備計画が目下、政府内で詰められていると聞いております。
――5月に送電網整備マスタープランの中間整理がされました。指摘された新たな送電線の実現性は。
野地 : 優先順位がとても高いと考えています。再エネ比率をあげていくためには北海道での洋上風力開発は〝マスト〟ですから。
地域や漁業と共存共栄の洋上風力を
――どれぐらいの事業者が道内で洋上風力を検討しているのですか。
野地 : 例えば石狩市沖エリアの一般海域については、当社も含めて複数の事業者が計画を練っており、環境アセスメントの手続きに入っています。
一般海域での事業化は、再エネ海域利用法(19年施行)というルールが整備されています。最終的には国が公募を行い、提案をした複数の中から、1つの事業体に長期での海域利用を認める仕組みです。
――再エネ海域利用法での審査ポイントは。
野地 : 事業性の部分に加え、地元経済との連携性や漁業者とのコミュニケーション、地域課題に一緒に取り組んでいく姿勢なども大切な部分です。
とりわけ漁業との共存共栄についても私たちは積極的に取り組んでいきたい。本日のセミナーでも講師の1人が発表されますが、洋上風車などの構造物の回りには小魚や甲殻類が集まってきます。いわゆる魚礁効果があるのです。
――御社は風力に早くから取り組み、豊富な知見があります。国内では先頭集団にいるのでは。
野地 : 洋上風力について当社は、再エネ海域利用法が施行される5年ほど前から地道に取り組んでいました。
国内初の風力専業の企業として、知見や経験の蓄積、専門人材の厚みは自負しております。何より陸上風力を始めた当初から、地域の方々としっかり向き合い、一緒になって取り組む方針を貫いてきました。
陸上風力発電所を開発する時、事業エリアによっては一部の木を伐採しなければならないこともあります。あるいは風車の音などを心配される近隣住民の方々がいらっしゃる場合もあります。
そうした点について、きちんと事前に調査を行い、丁寧に説明をし、影響を最小限に留める工夫や努力を重ねた上で地域のご理解をいただく。その姿勢は洋上風力事業でもまったく変わりません。
今後は海洋土木技術など、洋上風力ならではのノウハウも必要になりますが、当社と考えを同じくする企業とタッグを組んでいきます。仲間と一緒に、という姿勢です。もちろん、その仲間に地元企業の皆さんも入っていただきたい。本日の札幌でのセミナーも、そうした仲間づくりの第一歩と考えていただければ。
――各地でやっていますから気象や地理情報も豊富に持っていますね。
野地 : 気象面では、洋上風力の先進地であるヨーロッパと異なる点が2つあります。1点目はカミナリです。日本の洋上では大きなカミナリが発生することがあり、カミナリに打たれると設備が故障し長期に停止する恐れがあります。
2つ目が台風です。そうした日本の気象の特徴に対応した設計、メンテナンス対応をしていく必要があるでしょう。
経済波及効果は30年までに15兆円
――洋上風力の整備は国内経済にどのぐらいのインパクトがあるのですか。
野地 : 政府の30年目標の1000万㌔㍗をベースに考えると、初期投資とO&M(オペレーション&メンテナンス)段階も含めて約5兆円(累計額、日本風力発電協会の試算)とされています。経済波及効果は約15兆円にのぼります。
ただし、現実的には風車設備について海外からの輸入に頼る部分もあります。
私たちの業界としては、40年までにトータルで内製化比率を60%にすることを目標としております。
――巨大な新産業の登場です。
野地 : 風という資源の賦存量からすると、北海道は30%を占めています。洋上風力は、道内経済の活性化につながる可能性が大いにあるでしょう。
風車を組み立てる拠点港の整備も進むでしょう。個人的な見解としては洋上風力の適地が多い道内に、新たな拠点港ができるのが自然な流れだと思います。
――拠点港になると地域に大きな雇用創出効果があると思います。
野地 : デンマークの洋上風力の拠点港・エスビアウ港を視察したことがありますが、巨大な設備が広い敷地に林立していました。地域にもたらす雇用創出効果は大きく、アジアでは台湾が積極的に内製化にも取り組み、成果を上げていると聞いています。
――大手ゼネコンが室蘭港に浮体式風車設備の研究開発拠点を設置すると発表しました。
野地 : 日本の場合は遠浅の海が少なく、海底に据える着床式だけでは洋上風力の普及に限界があります。そのため、ある程度の水深があっても設置可能な浮体式の技術開発が、今後の発展のブレークスルーポイントになるのです。政府が掲げた40年に最大4500万㌔㍗という目標を達成するには、浮体式が欠かせないという認識です。
――世界的に見ると、浮体式でリードしている企業はどこですか。
野地 : 北欧のエクイノール社、世界的なエネルギー会社のロイヤル・ダッチ・シェルなどがあります。ただ、風車が大型化していく流れの中で、浮体式はまだ実証的な段階です。今後、技術開発で日本企業がもしリードしていくことになれば、輸出産業につながる可能性もあると思います。