【コロナ禍で〝悪者扱い〟されて丸2年】〝歌わないカラオケ〟ピロス(新札幌)の戦略

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社長の金子亮さん(右)とスタッフ。「落語園芸ルーム」は、落語家のサインや本がズラリ

 新型コロナが感染拡大し、丸2年。当初、真っ先に矢面に立たされたのが「昼カラ」だった。〝歌うことが悪〟とされるような報道の中、新札幌の「ピロス」が講じた生き残る策とは――。

 全国カラオケ事業者協会によると、2020年の市場規模は1973億円で、前年比マイナス48%と激減。全国9344店中、908店舗が閉店した。
 繰り返される時短営業や自粛に加え、カラオケ喫茶からクラスターが発生したことによる消費者の警戒心も影響。業界全体が大幅な減収減益となった。
 新札幌の駅前で25年間、営業を続ける地域密着型の「カラオケ ピロス」もまた、打撃を受けている。
「コロナ禍前は昼から夕方まで、高齢者で満室。18年3月期には、宝酒造のスパークリング清酒『澪』が日本一飲まれた店として、表彰されたこともありました。この2年間は、店に歌声が響き渡らない日もあります」と話すのは、同店の社長・金子亮さん。
 「気軽に『歌いに来て』と声をかけられない今、私たちは一切、カラオケのPRをしていません。ただ、歌う楽しさを忘れられないよう、20年は『カラオケ代行』を企画。新札幌にある飲食店の店主などをゲストに、SNS配信に力を入れました」(金子さん)
 しかし、翌年もコロナの収束は見えなかった。次に金子さんが考えたのは、店の名物〝ピロザンギ〟で、キッチンカーを走らせることだった。
 同店はもともと「新札幌をザンギのマチに」をテーマに、北乃カムイらと活性化を目指してきた。
「一般的にカラオケ店の食事は、お酒に合うよう濃い味。当店は毎日通われる高齢者も多かったため、ピロザンギはご飯に合う味を目指しました」(金子さん)
 ザンギ自体はあっさりめだが、客の提案や投票を元に、ソースは13種用意。〝味変〟もできるため、若者や子どもウケも上々だ。札幌近郊や、遠方は室蘭、長万部にも車を走らせ、ツイッターのフォロワーはまもなく5000人。店の柱になりつつある。買いにきた客からは「コロナが落ち着いたら、食べに行きたい」との声も上がる。
 店内での取り組みとしては「歌わなくても、空間や喫茶を楽しんで」との思いから、全24室のコンセプトルームを強化。中でも「落語演芸ルーム」は、落語家・立川志らく氏の一番弟子、立川こしら氏提供のレアグッズやサインが並び、落語ファンが通う場にもなっている。一時的にカラオケ機材を撤去している部屋もあり、コワーキングスペースとしても活用される。
 金子さんは「カラオケ店はどこも苦戦を強いられながら工夫を凝らし、店を守っています。ピロスはギリシャ語で『友だち』。会えない時間があっても、お客様との友情は続くと信じています」と話す。

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昨春から札幌近郊をメーンに走る「ピロザンギカー」
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店内でも「ピロザンギ丼」が人気だ

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