【ロータリー除雪車最大手】業界初を連発、NICHIJO(札幌)の60年

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2012年に発行された創立50周年記念社史

 札幌に本社を置くNICHIJOは各タイプの除雪車両を製造・販売している。中でもロータリー式では以前から国内トップ。南は九州・佐賀県まで納入の実績を持ち、設立から60年の間、業界の先頭を走っている。

創業者は鉄道マン留萌鉄道がルーツ

 車両前部にある金属の回転装置がわしゃわしゃと雪をかき込み、細長い投雪口から勢いよく吐き出していく。ロータリー除雪車(専門用語としてはロータリ除雪車と表記される)にとって、硬くひきしまった道路脇の雪山も敵ではない。前進しながらなんなく削り取っていく。
 道民にとって見慣れた冬の光景だが、ロータリー除雪車の多くを札幌のメーカー・NICHIJOが製造していることは、あまり知られていない。年商約120億円の企業だが、取引先は国や自治体、企業などでBtoBであるためだろう。
 営業部門トップは「ロータリー除雪車の国内マーケット規模は毎年度、約300台。その3分の2を当社が占めています。ロータリー除雪車が当社の売上高の約75%を占めています」と話す。
 機会があれば、ロータリー除雪車をじっくり見てほしい。NICHIJO製ならば車体のどこかに「HTR」の文字が見つかるはず。「ハイドロリック・トルクコンバータ・ロータリ」の頭文字を取ったとされる。
 裏話がある。創立50周年記念社史「じょせつき」(以下、記念社史)に「HTR」の〝当初の由来〟が記されている。
 国産初の自走式ロータリー除雪専用車を完成させた時、当時の開発部隊のトップ・田淵秀幸氏の名前から命名されたと。Hは秀幸、Tは田淵、Rがロータリを意味する。
 ところが田淵氏はすぐに思い直す。将来、由来を問われた時、自分の氏名から取ったとするのは照れくさく、かっこが悪い。そこで後付けで由来を考え、それを正式にしたという。
 そんなエピソードを持つ田淵氏は、1965年に2代目社長となった創業一族。初代社長の助六氏の子息に当たる。
 創業者の助六氏は1894年に福岡県で生を受け、青年期に本道移民団に加わった。北海道庁での勤務を経て大日本帝国鉄道庁、鉄道省に奉職した。
 転機は1930年。招聘されて私鉄の留萌鉄道に入社した。戦後、社長に就任する。
 この留萌鉄道の子会社として52年、NICHIJOの前身に当たる三和興業が発足。10年後に三和興業から除雪関連事業が分社化され、日本除雪機製作所(現社名になったのは2018年)が誕生した。
 日本除雪機製作所から数えて60年、三和興業を起点にすると70年の歴史には、何度も「初」の冠がつく製品が登場する。
 前述した国産初の自走式ロータリー除雪専用車の前には、同じく国産初のロータリー式ディーゼル除雪機関車がある。1958年完成で「D.R.101CL」と命名された車両は、親会社の要請を受けて開発された。留萌鉄道での試験走行を経て、翌年冬には大々的に公開された。
 記念社史によると、東京からの来賓も含めて100人以上の鉄道関係の専門家らが、実演会に参加したという。大変な注目度だったことは、当時の新聞記事からも想像できる。北海道新聞社の記事には「世界に誇りうる 運輸大臣表彰決まる」との大見出しが躍った。

給電できるハイブリッド除雪車

 その後もNICHIJOは技術開発・改良の歩みを止めることなく、国産初の高速走行型ロータリー除雪車も世に出した。
 世界初と銘打たれる車両も手がけている。2011年に完成したハイブリッドのロータリー除雪車だ。
 開発部門幹部の話。
「プリウスなどのハイブリッド車が普及し始めた頃で除雪車の分野でも社会的なニーズが生まれると考え、将来を見据え、他社に先駆けて取り組むことにしました」
 約35%の燃費削減を達成し、その後も改良を重ねていく。現在ではプラグインで施設に給電できる機能を搭載している。
「18年の胆振東部地震では道内で大規模な停電が発生し、当社も停電で活動が一時的に滞りました。その経験から、災害対策としての機能を付加しました」(前出の開発部門幹部)
「HTR145PHV」と命名されたプラグイン・ハイブリッド車両は大型の燃料タンクが満タン時なら、一般家庭の約1カ月分の電力を供給できるという。
 価格が既存の同サイズの車両より高めであるためか、残念ながらまだ1台も売れてはいない。
 ただ、時代の追い風は受けている。カーボンニュートラルが世界的な潮流となった。加えて、除雪車両のお得意先である行政にとり、災害対策は大きな責務。プラグイン・ハイブリッド除雪車は、将来への布石を打ったとも言える。
「基礎的な技術を自社で確立し、開発を機に制御系で特許も取得しました」(前出の開発部門幹部)
 ここまで道路向けと鉄道向けに焦点を絞ってきたが、ラインアップには歩道用や空港滑走路用もある。例えば、空港滑走路向けは「いかに短時間で除雪できるかが重要です。処理能力を高めた800馬力の車両を空港に納めています」(営業部門トップ)
 さらに除雪以外の車両の開発・製造にも力を入れており、製鉄所向けの重量物運搬車、新幹線向けの点検・作業車などでも実績を積み重ねている。JR北海道から依頼を受け、鉄道と道路の両方を走れるDMVの開発にも関わった。
 幅広いジャンルの特殊な車両を世に送り出せるのは、NICHIJOの技術・開発力の高さの証左でもある。

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1962年にデビューした「HTR2型」が自動車自社製造の第一歩だった
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プラグイン・ハイブリッド車両の「HTR145PHV」
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稼働している台数がもっとも多い「HTR308A」は汎用性が高い

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