統計分析からわかる意外「〝行儀のいい雪〟だから札幌は発展できた」

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除排雪で一定の幅員が確保された札幌市内の道路

「札幌の降雪は安定的だ」と言われると「えっ、ホント!?」とツッコミを入れたくなる市民もいるはず。この冬、何度かドカ雪に見舞われただけになおさらだ。しかし、長期データに基づく統計的な事実で、札幌の経済的発展とも結びつく。

降雪量のぶれは48都市中で最小

 長いスパンで見ると「札幌の雪は行儀がいい」と話すのは高宮則夫氏。法人・公共環境研究機構の理事長で、北海学園大学工学部の非常勤講師として寒地政策論を教えている。
 高宮さんは長期の雪データが存在する全国48都市を比較分析した。
 その結果を要約したのが55㌻の図と記述だ。平均、標準偏差、変動係数の3項目がある。解説する前に若干の用語説明が必要だろう。
 標準偏差は平均値を基準にし、各データのばらつき具合を示す。例えば雪日数の場合、標準偏差が小さいほど、例年の雪日数が平均からあまり離れていないということ。年によっての変動幅が小さいと言える。
 変動係数は、異なるデータ群同士でばらつきの程度を比較する際に、有効な指標だ。標準偏差と同じく値が小さい方が、データのばらつきが少ないことを指す。
 高宮氏が調べた結果、雪日数の平均値は札幌が7番目に大きい。標準偏差と変動係数は小さく、下から数えて6番目だった。札幌は降雪日数が他都市よりも多く、年によっての増減は比較的小さいことを意味する。
 降雪量に目を転じる。平均値では上位だが、標準偏差は真ん中のポジション、変動係数は48都市の中でもっとも小さい値である。長期的にみると、札幌はコンスタントに降雪量が多い地域であるというわけだ。
 次に図を見てほしい。点は各都市だ。札幌、道内第2の都市・旭川市、豪雪自治体として知られる岩見沢市と倶知安町だけ、自治体名を表記している。
 旭川は、雪日数と降雪量の両方で平均値、標準偏差ともに札幌を上回っている。札幌よりも雪が多く、年によって雪の量がばらつきがちな地域であることがわかある。
 岩見沢は、雪日数の平均値が札幌とほぼ変わらないが、標準偏差はかなり大きい。降雪量については平均値、標準偏差ともに札幌を大きく上回った。岩見沢は年によっては、札幌とは比較にならないほどのドカ雪シーズンが到来する傾向がある、と統計的に見てとれる。
 倶知安は、雪日数の平均値が札幌より大きく、標準偏差はほぼ同じ。降雪量はとびぬけて多い。倶知安は平年レベルでいつも札幌より雪の日が多く、雪の量については非常に多いことをデータは示している。
 こうした統計的な比較から高宮氏は、札幌の雪特性をこう考える。量は多いものの飛び抜けてはおらず、年による増減幅は比較的小さいと。ゆえに、自然は制御できない存在ではあるが、札幌の雪は行儀がいいと表現している。

雪関連産業を生む背景になった特性

 ところで、札幌のように降雪量が多いにもかかわらず、人口197万人も抱える都市は世界的に珍しいとされる。発展を遂げた背景には、積雪寒冷地に対応したインフラ開発や都市設計があった。さらに「札幌の雪特性が影響した」と高宮氏は見る。
 雪日数や降雪量の年ごとのばらつきが小さいため、札幌の場合、雪対策で経験則が生かされやすい。その結果、一定の予算を必ず確保し、計画的に除排雪を行える。
 この冬、ドカ雪に苦労した市民の中には疑問府を付ける人がいるかもしれない。ただ、東京の交通網が10㌢未満の雪で大混乱することを考えるとわかりやすい。要は、雪の量に見合った適切な規模の備えがあるか否かが重要なのだ。
 一方、民間サイドから見ると、除排雪などの雪関連の仕事が必ず一定の規模で生じるわけだ。安定的なマーケットである。もし逆に、雪の量が極端にアップダウンする環境ならば経営的には難しい。雪関連分野は現在のように産業化しにくかっただろう。
 市内における官民の除雪コストは、札幌の冬期間GDPの1%程度という試算がある。
 高宮氏は「約1%のコストで冬でも経済活動が維持されています。見方を変えると、冬期間GDPの1%相当の安定した雪産業が存在しているとも言えるわけです」と話す。

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