札幌心臓血管クリニックが「ウルフ‐オーツカ法」で心房細動患者を救う

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初診から治療まで〝待たせない〟迅速な診療を実践している札幌心臓血管クリニック

 医療法人札幌ハートセンター(藤田勉理事長・院長)が運営する札幌心臓血管クリニックでは、今年4月から保険適用となった「ウルフ‐オーツカ法」の体制を強化。心房細動が原因で発症する脳梗塞のリスク低減に力を注ぐ。

心房細動による脳梗塞リスクを低減

 医療法人札幌ハートセンターが運営する「札幌心臓血管クリニック」は、循環器内科医で心臓カテーテル治療に携わってきた藤田勉理事長が開院。外科・内科によるハイブリッドで治療体制を構築し、心臓疾患専門医院として実績を積み重ねてきた。   
 現在は、心臓外科部長で低侵襲心臓手術(MICS)センター長も務める橋本誠医師が、2022年4月からの診療報酬改定による保険適用に伴い、「内視鏡下左心耳切除術(ウルフ‐オーツカ法)」の症例数を伸ばしている。 
 心臓でできる血栓の90%以上は、左心房が一部突出した袋状の部位である左心耳に形成される。左心耳はなくても人体に影響がなく、切除することで心房細動が原因の脳梗塞を予防できる。同院ではウルフ‐オーツカ法の生みの親であるニューハート・ワタナベ国際病院ウルフ‐オーツカ低侵襲心房細動手術センターの大塚俊哉センター長を顧問として招へい。定期的に大塚医師の指導を受けている道内唯一の医療機関となっている。
 そもそも、心房細動とは不整脈の一種で、心臓の拍動がうまくいかずに血液をうまく全身に送り出せなくなる疾患。左心耳の中で血液がよどむことで血栓が形成されてしまい、血栓症のリスクも高まる。
 特に怖いのが脳梗塞だ。心房細動で生じた血栓は大きく、太い血管で詰まりやすい。そのため、脳に運ばれて脳梗塞を引き起こすと重症化しやすく、他の要因で引き起こされた脳梗塞と比べて、死亡率や後遺障害を引き起こす確率も高い。そこで、従来は血液が固まるのを防ぐ「抗凝固薬」を使用して脳梗塞を予防するのが一般的だった。しかし、血液がサラサラになることで消化管出血や脳出血など出血性合併症のリスクを伴うというジレンマも抱えていた。
 一方、ウルフ‐オーツカ法は血栓の形成部位を切除するため、抗凝固薬を使用するよりも脳梗塞リスクを10分の1程度に低減できる。抗凝固薬の使用を早期に中止できるメリットもある。さらに、内視鏡手術仕様の器具を使用して肺静脈隔離を実施するアブレーション治療も同時に実施することで、心房細動の正常化も可能だ。
 手術は左心耳切除のみなら約30分、アブレーション治療と併せても約1時間で治療が完了する。胸の周りに1㌢程度の穴を4箇所開けるだけで済むことから術後の回復も早く、2~3日で退院でき、患者の負担が少ない。さらに、副次的に高血圧が改善したという報告もある。
 橋本医師は「低侵襲なウルフ‐オーツカ法は後世に残っていくであろう有効な治療法。4月からの保険適用に伴い、今まで脳梗塞と出血性合併症のリスクに悩まされていた患者さんに積極的に実施したい」と語り、週に1日はウルフ‐オーツカ法の治療日として設けたいとしている。

外科・内科のバランスの良い医療を提供

 心房細動による脳梗塞の予防として、「WATCHIMAN」デバイスを用いた左心耳閉鎖術もある。これは内科的な治療法で、足の付け根に小さな切り込みを入れてカテーテルを挿入し、左心耳に留置。術後はWATCHIMANデバイスを覆うように内皮化が進み、左心耳が閉鎖される。閉鎖が確認された後に抗凝固薬を抗血小板薬に変更することができ、出血リスクを減らせるため、脳梗塞の予防が可能となる。手術にかかる時間は約1時間で、翌日には歩行ができるようになるのが一般的だ。
 ウルフ‐オーツカ法とWATCHIMANデバイスによる左心耳閉鎖術どちらも実施できるのは道内で同院のみ。患者の年齢や病状などに合わせた治療を選択できるのは同院の強みだ。
 橋本医師は「当院は内科と外科のハイブリッドな治療体制を構築している心臓疾患専門医院です。〝バランスのとれた医療〟をモットーに、内科と外科で連携し、患者さん一人ひとりに適した治療法を提供していく」と語る。

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橋本 誠 心臓血管外科部長

はしもと・まこと/2007年島根大学医学部卒業。札幌医科大学附属病院、榊原記念病院(東京都)などを経て、14年札幌心臓血管クリニックに勤務。日本外科学会認定外科専門医。日本心臓血管外科学会認定心臓血管外科専門医。医学博士。

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左心耳という袋状の部位に血液が滞ることで血栓が形成される
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血栓の90%以上が左心房内の左心耳で生じる。ウルフ‐オーツカ法にて左心耳を切除し、脳梗塞リスクを低減
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WATCHIMANデバイスを左心耳に留置して閉鎖。血栓の遊離を防ぎ、脳梗塞を予防

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