昨年来、政策要望で失態を重ねるJA北海道中央会。同会の機能不全の〝元凶〟である同会専務の処遇について、道農業界のドン・有塚利宣氏が会長の小野寺俊幸氏に〝直訴〟したという。機能不全を正せるか、同会は瀬戸際に立っている。
「今の状況を、改めて小野寺さんに伝えたかった」
翌日にJA北海道中央会の理事会を控えた4月25日の夜、札幌市内。十勝地区組合長会会長の有塚利宣氏と中央会会長の小野寺俊幸氏、そして宗谷地区組合長会会長の向井地信之氏の3人による会食の席が極秘に設けられた。
91歳の有塚氏は冒頭の思いを胸に秘め、便せん5枚ほどの自筆の手紙を持参。そこには北海道の農業が置かれている現状と、司令塔である中央会の機能不全、そして中央会専務の柴田倫宏氏以下、事務方の行状が綴られていたという。
中央会が柴田氏のもとで機能不全を起こしていることは、本誌や当社新ニュースサイト「財さつJP」でも逐一、報じてきた。
端緒は昨年11月初旬。てん菜を原料とする砂糖の交付金対象数量が、現行の64万㌧から55万㌧へ大幅に削減されてしまった。作付面積に換算して5000㌶分で、激変緩和措置もほぼ無いという大失態を演じることとなった。
てん菜は道内の畑作農家にとって、輪作体系の根幹。ばれいしょの種イモは急な増産が難しく、小麦やタマネギは連作障害や需給が緩和すると容易に値崩れする。代わりに何をつくればいいのか――主産地の十勝やオホーツクの農家の切実な声が、次々と本誌に届いた。
自身もてん菜の生産農家である小野寺氏を差し置き、交渉を一手に引き受けたのが柴田氏。だが農水省の担当部署が数量削減を決定する時期を見誤り、あわてて道内選出の国会議員に〝ちゃぶ台返し〟させるも不発に終わった。それどころか議員を無闇にたきつけたカドで一時、農水省から出入り禁止の憂き目に遭った。
あまつさえ柴田氏は、削減が決定した自民党の農林関係会合開催当日、四国へ研修旅行に出掛けて不在という有様だった。
続いて昨年12月の酪農関連の中央要請でも、中央会は失態を演じた。
発端は加工用途の生乳に対する補給金の「5円アップ要求」。補給金は計算式があり、昨夏以降の急激な飼料高騰への対応は難しい。
だが昨年の参院選比例区で農業界が推薦、当選した藤木眞也氏が酪農地帯のJA組合長に対し「高いボール」を投げるよう勧めたことから、その方針のまま特攻。再度農林族や農水省をあきれさせ、補給金は要求額の10分の1、約50銭アップで決着。代わりの対策もほぼ勝ち取れなかった。
本誌別項の通り、自民党農林族、いわゆるインナーの力に大きく左右される国の農業政策。現在、道内選出議員にはインナーが1人もいない。だが中央会、それも柴田氏に同情する向きは限りなく少ない。
それは柴田氏が中央要請のイロハを学んだ、中央会元帯広支所長・植田尚典氏の手法に原因がある。
植田氏は中央会入所後、参院議員だった故・北修二氏の秘書を経験したことで中央に人脈を培った。
その後、元農水大臣・吉川貴盛氏に接近。都市部の議員だった吉川氏をTPP問題のスペシャリストに〝教育〟し、農林族へ仕立て上げたことで功を成した。
その植田氏が可愛がっていたのが柴田氏。帯広支所長時代、柴田氏は東京事務所長としてタッグを組み、中央要請では吉川氏を中心に政治家を動かし、要請を優位に進めた。
この成功経験が柴田氏の中央要請の原点。官僚と合意しておきながら、吉川氏始め国会議員でちゃぶ台を返すことが常態化した。
「農水省や九州の自民党農林族議員は、何度も煮え湯を飲まされてきた。柴田氏は今でも植田氏や汚職でバッジを失った吉川氏を使ってくる。北海道、中央会と聞くだけで嫌悪感を持つ議員や官僚は多い」とは、現役の農水官僚の弁だ。
ある組合長OBは「政策を立案して政治家に提案するのは官僚。政治を使う前に官僚と政策を戦わせないといけない。それには、官僚と対峙できるだけの政策で武装する必要がある。だが今の中央会の要請は、道外の議員にお情けで頼み込む以外の手段がない。その結果、官僚の立てた政策をねじ曲げ、顔を潰すことになる。情報収集能力が低下しているのも、官僚に嫌われているから。その結果、道内農業に不利な政策に対抗するための時間的余裕がなくなって後手に回り、また政治を使う。ひたすら悪循環だ」と指摘する。
17年6月、植田氏などの計らいで、柴田氏は51歳にして学識経験者枠の常務理事、事務方トップとなった。
最初に行ったのは人事の掌握。ライバル職員を左遷する一方、その理由付けとして、ある手法を使った。中央会職員はこう告発する。
「柴田氏は排除したい相手がいると、権力はあるが内情を知らない人物に対し、ウソを吹き込む手法を得意とする。排除したい職員の評価を不当に低く吹聴することは日常で、それが広まった段階で左遷に踏み切る。最近は有塚氏に対して『高齢で被害妄想がひどい』といった話を周囲に話し続け、事情をよく知らない人が、それを本当だと思い込む。すると今度はその人の名前を使って『○○さんがこう言っていた』という話に責任転嫁している」
「中央会本所では今、柴田氏は自身の子飼いとの打ち合わせで小野寺氏や有塚氏に対し、聞くに堪えない罵詈雑言を飛ばし、一般の職員の耳にまで入ってくる。それに農業生産の規模が大きな有力地区と、小さい地区の会長や組合長等に対しては態度がまったく違う。農家とその代表への敬意がない」
柴田氏は、てん菜関連の報道について、業界紙の日本農業新聞に抗議文を出すなど、対マスコミへの締め付けや情報の統制を強めてきた。参事の伊藤謙二氏、3月末で定年となり、6月からJAカレッジ校長に転出するとされている、農政対策部長の平田靖氏がその〝実行部隊〟だ。
この2人に加え、内部告発者探しに血道を上げた札幌支所長の平野茂貴氏、上川支所長の林亮年氏らが直属の「柴田一派」とされる。
「休日に柴田一派で集まり、マスコミや有塚氏をどう押さえるかなど、対策を検討してきた」(前出職員)
その結果なのか、にわかに信じがたい〝作戦〟にまで打って出た。
4月20日、酪農地帯のJA組合長で構成する中央会の組織「酪農・畜産対策本部委員会(道酪対)」が開かれた。そこで配布された資料の記載について、口頭で資料の訂正を行った。
同日夕方、道酪対の内容について、農政対策部の酪農担当による記者向けレクチャーが開催。酪対とほぼ同内容の資料が配布され、本誌記者も受け取った。
この資料に記載された数字も、担当が口頭で訂正。後に、本誌が酪対に出た委員の持つ配布資料と照らし合わせると、同じ部分の数字を口頭で訂正したことがわかったのだが、訂正前の誤った数字が、酪対とレクの資料で違っていた。
つまり、単純なミスではなく、意図的に誤った数字を入れた資料を配布したことになる。
本誌の取材に、ある酪対委員は「そんなことまで…」と絶句した後、こう憤った。
「財界さっぽろがどこで情報をつかんでいるのか、情報提供元を探すためにあえてやっているのだろう。間違った数字のまま掲載されれば、後にガセネタを書く雑誌だと主張できる。そんなことのために、酪農政策の最高意思決定機関である酪対を悪用するのは、われわれへの侮辱にほかならない。数字を大事にしない組織、資料を意図的に間違う組織を、誰が信用するというのか」
この半年間、本誌には中央会内部だけでなく、JAグループの別の連合会幹部や、JA役員などからも多数の情報提供が届いている。
その中には「本誌が記事の買い取りを依頼したが中央会が断ったためウソを書いている」「広告掲載を要求した」「本誌が中央会に送付した質問状を配布している」といった話を中央会の職員がしてきたが本当か、といった問い合わせも多い。
末期的症状というほかないが、あえて言えば、そんな話を本誌から持ちかけた事実は一切ない。
「中央会の運営費は農家が支払う賦課金。厳しい経営環境の中でなけなしのカネを払っているのに、それを原資に魔女狩りやらガセ情報の拡散をしていると知った農家はどう思うだろうか」(前出酪対委員)
6月に行われる改選を持って、小野寺氏は定年で会長を退任する。その際、次期JAグループ役員を決める役員推薦会議に、小野寺氏は学識経験者枠の理事の「推薦状」に判を押し、同会議に提出。決裁を経て柴田氏の続投が決まる。
有塚氏が小野寺氏に手紙を書いた理由、その席に、同会議の委員長を務める向井地氏が同席した理由は1つしかない。
有塚氏は「柴田専務が理事になって6年、中央会はこれだけおかしくなってしまった。昨年、学経枠理事の定年が延長され、専務はあと15年、理事を続けられるが、そんなことをさせてはいけない。小野寺さんの最後の仕事だと私は思っている」と小野寺氏の〝決断〟に期待する。